青垣で建築設計事務所を営む一級建築士の芦田成人さんは、主に注文住宅や住宅リフォームを手掛けています。住む人のライフスタイルや使い勝手を考えるのはもちろん、ハイセンスなデザインで、丹波の風景にとけこむようなナチュラルさを兼ね備えた建物が特徴。さらに耐震診断も手掛けるという、芦田さんのオフィスを訪ねました。
木造の家造りがしたくて丹波にUターン
大阪で生まれた芦田さんは、親のUターンに伴って高校の3年間を丹波で暮らしました。機械の設計に興味があったため、大学は大阪で機械工学科に進学。たまたまアルバイトで入った建築設計事務所で建築が面白くなり、設計事務所の社長からすすめられたこともあって建築学科に転科。建築設計を学んで、卒業後はそのままその設計事務所に就職しました。
主にマンションやビルといった大型物件を手がけていましたが、次第に興味の対象が木造建築に移っていったそう。ちょうどインターネットが普及してきた頃で、「ネットがあれば丹波でも仕事ができる」と、思いきって丹波に戻って独立開業。それから約20年が経ちました。
「日本は資源が少ないですが、本来なら木材は自給できます。兵庫県の山にもよい木はあるんだから使おうよって思うんです」と、積極的に自身が設計する住宅に活用しています。
たしかに木材のぬくもりや香りは気持ちを落ち着かせてくれます。兵庫県の山に多い杉の木はやわらかいので、傷がつきやすいのですが、軽い傷なら濡れた布を置いてアイロンをかけたら、無垢の木ならではの復元力で回復するそう。「国産木材は高価なイメージですが、木目や節(ふし)もデザインに生かすことで、価格を抑えることもできます。私の事務所の床材はあえてこの節をデザインに生かしています」と芦田さん。
そして先ごろ、自身が設計した丹波市内の住宅「中庭のある家」が、「第8回日本エコハウス大賞」新築部門で奨励賞を受賞。機能性とコスト面のバランスを考えたエコな住宅が評価されました。そのニュースは新聞にも取り上げられて話題になっています。
施主さんの思いをくみとって建築
芦田さんが手掛けるのは注文建築が主なので、施主さんとのコミュニケーションはとても重要です。「ヒアリングシートに要望を書いてもらうんですが、それ以外にも会話の中でよく出てくるキーワードをひろうようにしています」と言うのは、お客さんが本当に求めることが雑談の中に見え隠れするから。趣味の道具を置く場所はどうするか、ペットが犬なのか猫なのかあるいは小鳥なのかによっても設計は変わります。
家族の人数によってもクローゼットの大きさは異なり、家具を作り付けにするのか既製品を入れるのか、決める内容は多岐にわたります。施主さんの思いをくんで形にするため、しっかりとヒアリングしてプロならではの最善の提案をします。
室内のことだけでなく、もちろん敷地全体のレイアウトも重要です。例えば、隣接する建物から家の中が見えてしまわないように、プライバシーをどう守るかということも大切なポイント。家の形、窓の位置、庭やガレージの位置なども細部にわたって検討していきます。さらには、厳しい夏の暑さと冬の寒さへの配慮も欠かせません。庭の樹木の葉が夏に茂れば陽射しを遮り、冬に葉が落ちたら温かい日差しを部屋に取り込めるように…など。住む人のことを考えた工夫を盛り込んでいきます。
チームワークでより良い建物を造る
芦田さんの仕事の中心は設計と現場監理です。建物全体の図面と施工用図面を書いて、施工現場に頻繁に足を運んで、現場監督や大工さんらと密にやりとりをするのが性分だそう。「現場に行かないと気がすまないんです」という言葉が信頼できますね。
図面はデータのやりとりだけでも進めることはできますが、直接顔を合わせて図面の細部まで共有すれば、勘違いや思い込みを取り払うことができます。「手もどりを発生させたくないから」という思いに納得。建物を建てるという大きなプロジェクトは、いろんな職人さんが関わるからこそ、意思の疎通をはかることが重要なんですね。
リフォームに関しても、お客さんのライフスタイルをしっかりヒアリングして、コスト面でも削減できる部分はカットして最善の方法を提案していきます。
最近はホームページを見た人からの問い合わせも増えているそう。住まいを大切に考えている人や、こだわりを持っている人にとっては、直接、建築士と接点を持てることはとても重要なのかもしれません。
耐震診断とアドバイスも可能
芦田さんは丹波市の簡易耐震診断員としても活動中。簡易耐震診断は、1981年(昭和56)5月31日以前に着工した戸建て住宅や長屋住宅、共同住宅を対象に無料で受けられるもので、兵庫県では介護リフォームの補助金を受けるために義務付けられています。残念なことに、芦田さんがこの数年間に診断した40以上の物件の中に、倒壊しないとされる評点を出せた建物は1棟もないそうです。
耐震が意識されるようになったのは近年のことなので、古い建物に要注意物件が多いのは仕方のないことかもしれません。大きな地震が起こると耐震への関心は高くなりますが、なかなか自宅を調べるまでには至らないもの。命に直結することなので、気になる人は一度役所に相談することをおすすめします。ちなみに芦田さんは診断後の補修計画策定にも力を入れており、できるだけ費用を抑えた必要最小限の工事から提案してもらえるのも安心です。
耐震が気になる筆者は、個人的に質問をしてみました。まず背の高い家具は突っ張り棒ではなくL型の金物でとめておくこと。寝室だけでも耐震化工事をしておくことなどを聞いて、優先順位をつけて徐々にやっていけば、安心度がぐんと変わるのだと気付きました。
住み心地や安全性にこだわった家づくりを考えているなら、身近な一級建築士として相談してはいかがでしょうか。
<注意事項>
- 掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。内容の変更、消費税率変更に伴う金額の改定などが発生する場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。