戦後まもなく開業した生花店。70年近く3代にわたって店を守り続けています。JR柏原駅近くに位置する本店のほか、より品揃えの多いコモーレ店で、今日も季節の花々や鉢物などを販売。事業者向けに花束のアレンジや店舗開業のスタンド花などにも対応しています。
品質第一、お客様の声第一で、花を選ぶ
三代目を継ぐ予定の松原範尚（のりひさ）さんに話をうかがいました。創業は1954年（昭和29）頃、範尚さんの祖父が開業しました。「祖父は車やバイクなどの免許を持っていなかったそうで、大阪の市場まで電車で仕入れに行って、すぐに必要なものは籠に入れて背負って帰ってきたと聞きました。その後、娘である私の母が免許を取って配達や仕入れなどの手伝いをするようになったそうです」。
やがてお母さんは現社長である進さんと結婚し、店を継ぐことに。5年ほど前にお母さんが亡くなった後、今は社長と範尚さんが中心となって店を切り盛りし、祖父が通っていた大阪の生花市場まで週に一度、二人で仕入れに向かいます。「かつては、社長と仕入れに行っている間、母が本店の店番をしていたのですが、今は月曜日の午前中は本店を閉めて仕入れに。月曜の朝に花が必要なお客様には、コモーレ店での受け取りをお願いしています」。
仕入れの際に昔から大事にしていることは品質です。多少高くても、競りでできるだけ価格を抑えるようにし、絶対に質を落とすことはしないのが信条です。「社長とは毎回、どんな花がお客様に喜んでもらえるだろうか、と話しながら選んでいます。時には、常連さんの顔を思い浮かべながら、仕入れることもありますよ」。
本店は色鮮やかな切り花のほか、鉢物なども豊富。急な花束のアレンジオーダーにも応えます。「お客様のご要望をよく聞くようにしています。“かわいい”とひと言でいっても、その捉え方は人それぞれですので。こういう色はどうですかとか、どういう部屋に置きたいのかとか。詳しく聞き取ります」と、そういった“会話”も楽しいと範尚さんは言います。
コモーレ店の浸水被害をきっかけに、丹波に戻って花屋に
範尚さんは、大阪にあるコンピューター系の専門学校を卒業後、そのまま大阪の生花店で働きました。「当時は継ぐつもりはなかったんですが、一応勉強はしておこうかなと思って。ゲーム関連の仕事の手伝いもしつつ、大阪の花屋で7年ほど経験を積みました」。
1996年（平成8）に、お父さんが創業メンバーの一人だったという「コモーレ丹波の森」がオープン。そのショッピングモールに入るかたちで2店舗ができました。
そして2004年（平成16）10月、兵庫県に甚大な被害をもたらした台風23号が丹波市を襲います。「大阪の生花店で働いているときに、父から連絡が入ったんです、店が大変だからすぐに帰ってきてくれと」。急いで帰ると、コモーレ店が1m20cmほど浸水。「もう、泥水でぐちゃぐちゃでした」。その後、お母さんが病に伏せったこともあり、「あと2,3年は大阪で修業したかった」と思いつつ、丹波に戻ることになりました。
コモーレ店は全体的に本店よりも品揃えが豊富。切り花に鉢物、ドライフラワー、プチブーケなど。新入荷特集のコーナーや、お手頃な「大特価」コーナーなど、見て回るだけでも楽しくなるほどです。
力の続く限り店を守り、お客様に喜びを届けたい
個人のお客様だけではなく、市内の車販売店や飲食店、不動産屋、工務店、デイケアサービス、行政関係など、様々な業種からのオーダーも入ります。「同じ柏原町内は無料で、ほかの町は1回500円で配達も承っています」とのこと。
時には、小学生くらいの子どもがお小遣いを握りしめて、母の日などにやってきて、1本だけ花を買っていくこともあるとか。「そういう瞬間に立ち会えるのも、花屋をやっている醍醐味かもしれませんね。この子が持ち帰る花を見たお母さんの笑顔が思い浮かんで。幸せのお裾分けをしてもらっている感じです」と笑います。
継ぐ気はなく、それでも花の世界に足を踏み入れた範尚さんですが、やってみたら面白かったそう。花の色の組み合わせで見え方が全然違ったり、仕入れ先で外国産のおもしろい花に出会ったり「花の世界は奥が深いなぁ」と。接客も楽しく、お客さんそれぞれが花を買いに来てくれる背景や思い、ご希望に添えず買っていただけなくても、市場で会話を思い出して仕入れてきたり。「その時のお客さんが直接買わないにしても、思いがつながっていく感じがするんです」。
そして、その思いは、次を見据えています。「自分が継いだら、せめてあと30年。創業100年を目指して頑張りたい。地域のみなさんに喜んでもらえるよう、体力の続く限り、頑張りますよ」。
＜注意事項＞
- 新型コロナウイルス感染症拡大予防のため、店内でのマスク着用、手指の消毒、ソーシャルディスタンス等に配慮しています。ご協力をお願いいたします。
- 掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。内容の変更、消費税率変更に伴う金額の改定などが発生する場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。