青垣町でお米を中心に栽培している「蘆田農園」の蘆田浩二さんは、サラリーマンを経て、専業農家としてスタートをきってから約6年。青垣の豊かな自然の中で、一人で農作業にまい進する日々、収穫を前にした時期に、作業の手を休めてお話を伺いました。
サラリーマンを辞めて専業農家としてスタート
兼業農家の家に生まれ、自身も一旦は企業に就職した蘆田さんですが、充実した毎日を送りながらも「何か、もの足りない」と感じていたそうです。忙しく過ぎていく日々の中で、幼い頃から身近にあった農業への思いがふつふつとわいてきました。その思いが拭いきれなくなった時、専業農家になることを決意して退職を選びました。
その時に決めていたのは、「米づくりで生計をたてる」ということ。なんとなく地元で、家族や近所の人の農作業を見ていたとはいえ、いざ本格的にやるとなると思いのほか大変だったそうです。この地域には専業農家も多いので、2年間は近所のベテラン農家さんのもとで働きながら、栽培方法を教えてもらいました。並行して自宅の田んぼで作った最初の年は、本当に手探り状態。「機械も揃っていなかったし効率が悪くて……」と言うように、土作りから種まき、水の管理、草取り、収穫まで、一つ一つの作業に試行錯誤を繰り返し、失敗してあわてたこともあったそうです。
そうは言いつつ5反からスタートした田んぼが、6年で30倍の15町になりました。高齢になって農作業がきついという近所の人から管理を頼まれるうちに、増えていったのです。「直前まで米づくりをされていた大切な田んぼですから、きちんと受け継がないと」と、この規模に対応できる機械もある程度揃えて、農作業に取り組んでいます。
手間がかかるけれど米作りは楽しい
米不足だと騒がれた夏を経て実りの秋。今年は雨が少なかったとはいえ、なんとか無事に生育して、たくさんのお米が出荷できそうです。
お米以外には6町ほどの畑で丹波大納言小豆も生産していますが、今年は発芽時期に暑さと水不足が続いたため、どんな影響が出るか少し心配だそう。利益だけを見ると丹波大納言小豆のほうが良い場合もありますが、米の買い取り価格も上がってきました。「価格よりも米づくりは単純に面白いんです。ほんとに手間がかかるんですが。手をかけるほど美味しくなるし、思い入れも高まってくるんです」と蘆田さん。
蘆田さんは自分で種もみから苗を作っています。「3月から4月にかけてハウスで育苗を行いますが、温度管理が重要です。暑すぎても育たないので、手作業でハウスのビニールを開けたり閉めたりして調整しています」とのこと。筆者は実際に見たことがないので、とっても気になります。3月、4月といえば季節の変わり目だから、気温の変化も激しく調整が大変なのは想像に難くありません。温度と同時に気を配るのが水の管理です。土と種もみが入った苗箱の高さ、そして水の過不足にも注意を払います。水をやりすぎても少なすぎても苗にはよくありません。しっかりと育って強い苗ができたら、田植えをしたあともよく育つので、育苗はとても重要な仕事なのです。
ふっくら甘いお米を届けたい
「太陽の光をたくさん浴びて育ったお米は、口の中に甘みが広がります」と、自身が作ったお米の味に満足そう。実際、周りの評判もいいそうです。現在は主にJAに卸していますが、依頼されて大阪の飲食店数件にもお米を送っています。そのレストランや居酒屋がずっと継続して注文されているということは、美味しい証拠ですね。
とはいえ地球規模の気候の変動期にあって、環境との付き合い方は毎年同じというわけにはいかないでしょう。卸売価格の変化にも左右されます。今後の展開を訪ねると、「自分の作ったお米を、消費者の方々に直接届けるおもしろさを知ったので、直販もやりたいです」と蘆田さん。顔が見える関係なら食べた人の声が聞けるから、作り手として参考になるし励みにもなります。5キログラムとか10キログラムずつ定期的に取り寄せることができたら消費者としも便利です。なにより丁寧に育てられて精米したてのお米が届くなら、味も美味しいはず。
蘆田さんは、自分が作った丹波産コシヒカリを「より多くの人々に知ってもらい、食べてほしい」とホームページも作りました。田んぼや畑の「今」の状況をSNSでも発信してほしいですね。丹波の豊かな自然の中で丹精こめて作られた、愛情のこもったお米を私も味わってみたくなりました。
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