春日ICから車で約2分、国道175号沿いにあるカントリー調の黒い建物。はためくのぼりに「会津そば」の文字が見えるけれど、蕎麦屋らしくなくて興味をそそられる店。ここが、2024年(令和6)8月4日にオープンした手打ち蕎麦の「純三郎」です。店主の東野純子さんが打つ蕎麦と独自のつゆがおいしくて、リピーターが増えているようです。
名物の大根汁で食べる二八蕎麦
純三郎セット(蕎麦、天ぷら、小鉢3点、薬膳飯、スイーツ)2,300円
「純三郎」の蕎麦は、会津産の蕎麦の実を自家製粉して打つ二八蕎麦。冷たい「もり蕎麦」は、大根汁と呼ばれるつけだれでいただきます。これは大根のしぼり汁に特製醤油を好みの量だけ加えるもので、ピリッとくる大根の辛味がいい刺激になるんです。関西では目にしたことがないのですが、おいしいうえに大根は胃腸にやさしいので、夏バテの時などにいいかもしれませんね。
山菜蕎麦(1,300円)+天ぷら(600円)
温かい蕎麦のおつゆは、東野さんが習った師匠の味を関西風にアレンジしたもの。ゆがいた蕎麦を一旦冷水でしめて再度温めるので、コシが生きています。単品蕎麦にも自家製の漬物、冷奴、和え物の小鉢がつきます。
自家製スイーツのコーヒーゼリーは母の味を再現。トッピングは、味付けしたミルクとたっぷりのホイップクリーム、甘さ控えめであとあじすっきりです。
お茶は黒豆茶、そば湯はポットに入ったものをセルフで。
ひとりで打てる量が限られているので、売り切れたら閉店となります。席の予約はできませんが、お取り置きは可能なので、確実に食べたい人は事前に連絡を。
温かい雰囲気の蕎麦屋
ひとりで蕎麦を打ち、キッチンに立つ東野さんは、手があくと客席に出て「大根汁はいかがでしたか?」「そば湯もどうぞ」とお客さんに声をかけています。スタッフもお客さんに声をかけるし、見知らぬお客さん同士もおしゃべりしている、なんとも居心地のいい雰囲気です。「アットホームな店、というのが目標だったんです」と東野さんの思いが伝わってきます。
なめこ蕎麦(1,300円)
なぜ蕎麦の道へ?とたずねると、「何か店をやりたいと考えた時に、好きな蕎麦の店にしようと思ったんです。そんな時、たまたま、味がいいけど一風変わった店を紹介するテレビ番組『オモウマい店』(日テレ系)で、埼玉県にある蕎麦屋が紹介されていて、気になって…」と、のちにその「會津野 茂三郎」で修業をすることになります。
茂三郎は、連日オープンと同時に列ができるほどの人気店。訪れた時に初めて食べた大根汁の蕎麦に感動して直談判し、弟子入りが許可されました。向上心に燃えて入った道ですが、修業中はうまくできなくて、苦しかったり悩んだりしたこともあったそうです。日によって違う気温や湿度に合わせて、蕎麦粉に加える水分量を加減するのは、とても難しい。それが顔に出ていたのか、師匠から「最初は誰でもそうだから気にするな」と声をかけられ、気付いてもらえたことに胸が熱くなったそうです。この師匠に喜んでもらいたい、がんばろうと改めて誓った瞬間でした。
いつか師匠のように蕎麦打ちの楽しさを伝えたい
アメリカンカントリー調の店舗は、以前使われていた店のまま居抜きで使っています。星条旗やギターが飾ってあって、蕎麦屋らしくないのがおもしろい。
ナチュラルでかわいい流木雑貨は豊岡のアーティスト、Fujii Kouichiさんのもの。惚れ込んで、何体もオーダーしているそうです。
「蕎麦打ちは楽しい」という東野さん。みんなに食べてほしいと思った師匠の蕎麦を丹波で再現できて、店を出せるまでに指導してもらった師匠への感謝が、言葉のはしばしからあふれています。師匠が打った蕎麦を初めて切らせてもらった時、「こんな不格好なのはお客さんに出せない」と、ゆがいて食べさせてくれました。「憧れていた蕎麦打ち、切っただけなのに自分でもできたということが嬉しかった」と東野さん。テレビで師匠を見た時は、蕎麦打ちは遠い世界のことだったのに、一歩を踏み出せた喜びもありました。
「やりたいことを始めるのに年齢は関係ありません。失敗したとしても挑戦したことが、絶対に自分の糧になります。私は夢を追ってよかった。まだ始めたばかりの店ですが、がんばって続けていきたい」と言う東野さんは、蕎麦打ちを通して、「夢に向かって挑戦を続けることの楽しさを伝えたい」と、さらに師匠の背中を追っていかれるようです。
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