〒669-3601 丹波市氷上町成松140-7

歴史ある書画から身近な紙ものまで、地域の芸術を守る職人の姿勢

太田檜雲堂

掛け軸や巻物、ふすま、障子、屏風などを仕立てる「表具屋」。紙に描かれた書画は補強することで100年、200年の時を超えて美しく保たれます。寺社の表具や、歴史ある書画の修復に携わるものもあり、その仕事内容はとても繊細な技術を要求されます。今回お邪魔したのは、1910年(明治43)創業・青垣町にある表具屋「太田檜雲堂」です。

 

実演!江戸時代につくられた、由緒あるふすまの修復作業

取材チームが工房を訪れた時、店主の太田嘉久さんは古いふすまを前に、ピンセットを持ち修復の作業中でした。虎の水墨画が描かれた立派なふすまは寺院で使われてきたもので、江戸中期からあったものではないかと太田さんは推測しています。

立派なふすまも、長く使い続けると日焼けや線香の煙、カビなどで変色してしまいますが、「洗い」という作業を行うと紙(の色)が元の色に近づき、描かれた絵も鮮明になります。「洗い」に使う薬品は、古く傷んだふすまに使うと損傷することもあるので、その前にしっかりとした補強作業が必要です。

これは、ふすまを補強するために古くなった裏打紙を剥がす作業です。絵が描かれた表の紙の劣化具合を見ながら、どの程度剥がすかを緻密に調整します。剥がし終わると新しい裏打紙を張り、乾燥させて「洗い」に耐えられる強度にします。

昔の大福帳には良質な和紙が使われていたため、襖・屏風の下張りに再利用されることもある。

 

無事補強が終わり「洗い」に入っても、作業に時間がかかりすぎると、「洗い」に使う薬品が墨と紙を接着する「にかわ」まで流れ落とし、絵まで流れてしまうという難点が。変色の部分だけが落ち、「にかわ」が流れ出すまでのタイムラグを利用した作業なので、時間との勝負、気を抜くことはできません。

太田檜雲堂 太田嘉久さん

※太田さんによる「洗い」動画。美しく蘇る掛け軸に驚きます。

また、お寺の建て替え等に伴って新しい作品を納めることも。青垣町佐治にある浄土宗のお寺「称念寺」の、本堂内陣・阿弥陀如来像の後ろにある金色のパネルは、太田さんが手掛けたものです。金箔が張られた面の裏面には掛け軸仕上げの仏画があり、ふすま仕立てのパネルに金箔と仏画を張ってはめ込んだつくりになっています。

 

称念寺・阿弥陀如来の後ろの金箔パネル

金箔パネル背面の仏画

 

歴史あるものの修復や、由緒ある場所への納品は「緊張の連続」と語る太田さんですが、「古い表具やその場所に思いがあってご依頼いただいていますので、その思いに応えられるようにきっちりした仕事をしていきたい」と、仕事に妥協しない姿勢をその言葉ににじませます。

 

身近にある大切な「紙もの」を長く美しく楽しむために

10年前の墨絵、紙の折り目を消して美しく

 

太田檜雲堂の仕事は古くなった表具の修復の他、一般家庭用のふすま作りや張り替え、障子や屏風、掛け軸の修復や制作など多岐にわたります。子どもの習字や筆絵の作品を大切に飾るため額装するというケースも、生活に身近な事例です。

 

画仙紙・半紙は折り目やシワがつきやすく、家庭での保管は難しいものです。しわしわになってしまった作品も、太田さんの手にかかれば折り目などなかったかのようにまっすぐきれいに仕上がります。

用途によって使い分けられる刷毛

 

「額装もいいですが、お子さんの習字の作品を沢山保管する場合は、裏打ちをして御朱印帳のような形に製本し、本をめくるように見られる形もいいと思います」と、提案。大切にしたい「紙もの」について、いろいろと相談できそうです。

 

丹波市に眠る「価値あるもの」に触れられるオープンギャラリー

太田檜雲堂 ギャラリー

 

昨今の断捨離ブームもあり、古い貴重な掛け軸などを手放す人が増えてきました。持ち主をなくした表具や掛け軸の中には、太田さんから見て、価値の高いものもあるそうです。ここでいう「価値」とは、「高値がつく」という意味だけではありません。歴史的な価値が高いものは地域に残すことで地域の財産になります。

 

「旅行先では、表具や掛け軸などをはじめ、芸術作品をじっくり見ることがあると思います。実は地元丹波市にも他の地域から注目され、評価される作品がたくさんあるんです。丹波市出身者や丹波市で活躍されている方に目を向ける機会を持ち、興味を持っていただきたい」と太田さん。青垣町佐治のまちなかにある太田檜雲堂のギャラリーが2年前に開設されたのも、この思いがあってのこと。

丹波市ゆかりの芸術家の作品が飾られているギャラリー。
ワークショップも随時開催

 

不定期開催のオープンギャラリーは、フェイスブックページや丹波新聞で開催が告知され、身近な芸術を楽しみにさまざまな年代の人が訪れます。「素晴らしい作品を作っているのに知られていない人をまず知り、そして守っていただきたい」と、太田さんは考えています。オープンギャラリーは、太田さんの思いや相談しやすい人柄に触れられるよい機会でもあります。地域に眠る芸術を知り、それを守る人に会えるギャラリーは、是非気軽に足を向けてほしい場所です。

 

text:済木麻子

 

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