丹波市山南町の住宅地の中にある「石垣商店」。まちの食料品店として50年近く地域の人達に親しまれています。創業当時は近くに同業種も多かったのですが、丹波市内にもスーパーマーケットが増え、現在この形の食料品店は山南町でただ一つとなりました。時代が変わってもなお愛されるお店の背景には、仕事に対する姿勢と地域への思いがありました。
「お客さんの欲しいもの、喜ばれるもの」を取りそろえ続ける地域密着のお店
店主 石垣孝幸さん
お話を伺った店主の石垣孝幸さんは、石垣商店の二代目。サラリーマンをしていたお父さまが自宅スペース内にタバコ屋を構えたのがお店のはじまりでした。
「そのうち、お客さんの要望する商品を少しずつ置くようになって、気がついたら売り場が広がり、取扱商品も増えていきました」
店内には、肉・魚・野菜などの生鮮食品、調味料・乾物類、練り物類、お菓子などの食料品の他、食器洗剤や市指定ゴミ袋、線香や野菜の種子まで、地域の人が求めるものが一通りそろうよう、幅広い商品が並んでいます。
「先代はお客さんのご要望に応えたいという気持ちが強く、その気持ちを引き継ぐ姿勢で日々取り組んでいます」と語る孝幸さん。現在お母さんと二人で営むお店には、取材中も次々と地域の方の来店がありました。
左・お母さんのしづ子さん
「良い天気になったね」「今日はこれからどこ行くの？」など、レジを打ちながらとられるコミュニケーションに心が温まります。お客さんは地域の方が中心、徒歩での来店も多く、散歩を兼ねて石垣商店に来るのが日課になっている方も。
「近いから、行きやすいからというのはもちろん、いい商品を取り扱うことで『やっぱりここのお魚が良いわ』『前買ったお惣菜が良かったからまた来た』と言われるのが一番嬉しいです。そう言ってもらえるように、特に魚などは鮮度にこだわった仕入れを心がけています」と孝幸さんは話します。
毎朝5時、西脇市の卸売市場で鮮度の良い魚を仕入れる
「今日のおかずは何？」毎日楽しみになるお刺身・お母さんのお惣菜
実はお店に入った瞬間から気になっていたのが、店内に漂う美味しそうな匂い。奥の厨房ではお母さんが大鍋で煮物を作っていました。作っていたのは「すき焼き風煮」。お麩の代わりに高野豆腐を入れるのがお母さん流です。
「今風なことはできないけど、昔ながらの味を味わってもらえたら。お買い物に来た人が、『良い匂いしてるからやっぱり惣菜もちょうだい』って言われることもありますよ。奥さんに先立たれて一人暮らしをするおじいさんなどは、自分では料理ができないけど、体のために色んなものを食べたいと、一品こういうものがあると喜ばれています」
調理師免許を持ち、板前修業の経験もある孝幸さんがお刺身を担当し、揚げ物や煮物はお母さんが家庭の味を提供。「今日の惣菜は何？」と毎日楽しみに来られる人も多い、人気商品です。
地域の人のお楽しみ！ たくさんの商品を積んだ行商トラック
石垣商店の行商トラック
午後からは、大きな冷蔵・冷凍トラックで山南町内を行商にまわります。いわゆる「車社会」と言われる丹波市でも高齢者の間では免許証返納の動きが高まり、日々の買い物がネックになる中、とても喜ばれているサービスです。
「みなさん、何曜日の何時頃来るかを把握してらして、お客さん同士集まってお話しながら来るのを待ってくださっています。楽しみにしてくださっていることが嬉しいですし、コミュニケーションの場づくりという意味でもお役に立てていたらいいなと思っています」
トラックには生鮮、冷凍、乾物の他、生活用品や衣料品まで幅広い商品が積まれる
一般的に行商は店頭価格に上乗せで販売されることが多いですが、石垣商店は行商でも店頭と同価格。行商ではお客さんの欲しいものがトラック内にみつからないというケースもありますが、その場合は夕方から配達に回るという親切ぶりに驚きます。買い物がてら、「電池の交換してくれる？」などのお願いもされるという孝幸さんは、地域のお母さん方みんなの息子のような存在のようです。
全国的に大型スーパーが増えていますが、石垣商店のようなまちの小売店は、地域に根ざした親切なサービスと扱う品物の専門性の両面から、地域になくてはならないお店となっています。サービスの全てに、「地域のお客さんの暮らしを豊かにする」という信念と、お客さんの心に親切に寄り添う姿勢が垣間見え、地域の方に愛され続ける理由が伝わってくるようでした。
text 済木麻子
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