独自に配合した温かみのある色合いと軽さに惹かれる陶芸作品

閑心窯

「閑心窯(かんしんがま)」は、陶芸家・大杉康伸さんが丹波市山南町の石龕寺(せきがんじ)近くに構える陶芸工房です。15年前に登り窯を築き、今では灯油窯も使って備前焼と伊賀焼に影響された作風で、土鍋や花器、日常使いの食器などを制作しています。

卓上で美味しい土鍋ごはんが炊けるかまど

最近、注目されているのが、固形燃料だけでごはんが炊ける「竈飯(かまどはん)」という商品です。土鍋でごはんを炊くのと同じような炊き上がりで、しかも固形燃料に火をつけたあとは燃え尽きるまで放置してOKという手軽さがウリ。IHクッキングヒーターのお宅でも美味しい土鍋ごはんを食べることができます。

白米1合用(9,680円・税込)は、20~25分ほどで炊き上がり。おかずを食べたり、お酒を楽しみつつ、卓上で炊き上がりを待つ時間もごちそうに。まるで高級料亭のようです。

大杉さんは、「自分の家でも、ほかでごはんを食べてるようなシチュエーションや、特別な感じを提案したかったんです」と、制作した想いを語ります。

かまどの上に釜を乗せたまま、見せる収納をしてもおしゃれです。棚の奥などの見えない所にしまう場合は、釜の部分がかまどの中にすっぽり収まるサイズになっているので、コンパクトになります。ちなみに、かまどの下に敷く木板と固形燃料を受ける小皿もセットでついてきます。

登り窯と灯油窯を使ってさまざまな個性を生み出す

大杉さんの代表的な作品のひとつが、この赤と青のしのぎの食器。赤は顔料で、青はコバルトの釉薬で色付けし、独特な味わいが生まれています。

ごはん茶碗や急須、湯飲みのほか、ティーカップにコーヒーカップ、スープカップなど、アイテムもさまざま。「人気なのはマグカップですね。どれも微妙にカタチが違っていて、お客さんがそれぞれ好みのものを選びます」。確かに、どれも可愛くて迷います。

そして、大杉さんの作品は、どれもとっても軽い!「軽い方が使いやすいと思っているので、重くならないように、ろくろで極力薄くしています」。薄い陶器は、焼いたときに変形しやすくロスが出てしまいます。それでも軽さを追求するのは、「自分自身が軽い食器が好きというのもありますが、ご高齢の方にも使いやすいものを作りたいからです」といいます。

大杉さんは年に1回、登り窯に火を入れます。薪をくべて4日間、寝ずに焚き上げていきます。ひとりではできないので、友人知人に協力を仰ぎ、交代で火の番をするのです。

登り窯では、壺や花瓶、ぐい飲みなど、釉薬をかけずに焼くことが多いのだそう。窯のなかのどこに置くかによって灰のかかり具合が変わり、焼き上がりが安定しません。「そこが、おもしろいところなんです」と、大杉さんは登り窯の魅力をこう続けます。

「電気窯にせよガス窯にせよ、焼き上がりは安定しています。なので、だいたい仕上がりは想像できるんです。こういう感じでできあがるなと。でも、登り窯は、最終的に開けてみないと焼き上がりが分からない。一つとして同じものが焼き上がらないのも、登り窯の魅力です」。

知識や経験のすべてを作風に活かす

大杉さんは高校時代、ものづくりの仕事に携わりたいと思い、陶芸の道を志します。卒業後は陶芸の学校に通い、備前焼作家のもとで修業をします。その後、朝から晩までろくろを回して、もっと腕を磨きたいと考え、伊賀の窯元へ。ここで土鍋制作や釉薬の調合なども学びました。

お父さんの実家が丹波で親戚がいたことや登り窯をやりたかったこともあって、丹波の地で独立することに。「閑心窯」という屋号は、「静かな気持ちで本物をつくる」という意味があり、石龕寺の住職に考えてもらいました。現在、灯油窯で釉薬をかけた食器などを日常的に制作し、登り窯を使うのは年に1度。独立した2006年(平成18)当初は、灯油窯はなく、登り窯だけで茶碗や湯飲みなどをつくっていました。「でも、奥様方のウケが悪かったんです」、と大杉さんは苦笑いします。

「備前焼にしてもそうですが、食卓に例えば一つだけ置いてあるとかっこいいんです。食器全部が無釉の焼き締めだと、ちょっと食卓が重いというか、暗くなるんです」。そういう傾向が分かってからは、食器類は釉薬を使ってつくることが増えたのだそう。「だから、登り窯では自分のつくりたいものを焼いています。酒器とか抹茶茶碗、花器とか。かっこいいなぁと、思いますね」。

大杉さんは、お茶とお花を習っています。「茶器や花器をつくってるので、そのほうがお客さんも安心するかなと思って」、という理由です。習い始めてから、それぞれの作法やルールを知り、作品づくりにも生かせるようになったといいます。

例えば、お抹茶をいただくときは、茶碗の正面は必ずはずし、その右側が飲み口になるということが分かりました。どれだけ歪んだ形の茶碗にしても、正面の右側は飲みやすくつくるようになったそうです。

丹波だからこそできること

丹波ならではの作品づくりにも積極的に挑みます。これは、自分で調合した胡麻釉の器。近所の胡麻農家がたくさんくれた胡麻の殻を使いました。「胡麻は殻にも油が多いので、焚きつけに使うことが多いのですが、灰にするだけではもったいないので、釉薬にしてみたら、いい感じの青が出たんです」。

丹波市内の料理屋さんなどで使ってもらえればいいかなとつくった、丹波栗をモチーフにした、箸置きと小皿。「せっかく丹波に工房を構えたので、この環境を生かしていきたいです。それに、丹波には陶芸に限らず、モノづくりをする作家がたくさんいます。そういう作家同士の交流を増やして、みんなで一緒に丹波市外に発信できる何かが実現できたらいいなぁと思っているんです」、と丹波作家の大いなる可能性を探ります。

大杉さんの作品は、阪急うめだ本店やジェイアール京都伊勢丹などの百貨店、各種展示会などのイベントで購入できるほか、自社ホームページでも。工房には新作も含めお宝がいっぱい置かれていましたが、「なかなかウェブショップにアップできてなくて…」と、笑顔で頭をかきます。今後は、新しい釉薬にトライしたいという思いもあったり、秋冬になると、毎年人気の高い土鍋のラインナップも増えるそう。ウェブショップの更新を心待ちにしています。

 

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