昔から受け継がれてきた古い建物や、長く使える“本物の部材”をたっぷり使って空間を作り上げる、建築デザイン事務所「アトリエ白(はく)」。あえてシンプルに仕上げることで、住む人・使う人が主役になるような空間を目指します。手がけた住まいやお店はいずれも美しく、いるだけで心が豊かになるような魅力に満ちています。代表の細見直也さんに、作り手の思いについて伺いました。
「引き算」を大切に空間デザイン
柏原の街の中にある山カフェの隣に、2023年、なんだかすてきなスペースが現れました。通学中の小学生から「お店かな?」との声も聞こえるこちらが、「アトリエ白」の事務所です。
代表の細見直也さん
代表を務めるのは、二級建築士、一級建築施工管理技士の資格を持つ細見さん。丹波市の工務店にて20年以上建築に携わり退職後リサイクル事業へ、その後お客様からの依頼も増えたことから2023年に建築デザイン事務所として独立。「アトリエ白」を立ち上げ、店舗や住宅などのりノベーションや古民家再生などに力を入れています。
細見さんが建築デザインにおいて大切に考えているのは、なるべく“引き算”で考えることです。装飾的なデザインは極力減らし余白を最大限に活かすことで、空間が持つ価値がぐっと高まるのだと細見さんは話します。
例えばアトリエ白の事務所内は、通常の内装では当たり前に取り付けられる廻り縁や巾木(天井と壁、壁と床の境目に取り付ける隙間隠し)をあえて使用せず、直線的にデザイン。壁に造作の収納棚なども取り付けず、シンプルかつフラットに仕上げています。
「空間がミニマルであればあるほど、何か物を置いたときに、その物自体が主役になります。住む方や使う方の好みに合わせて自由にアレンジできる空間。そういった建築デザインをご提案したいと考えています」(細見さん)。
質感のある部材やインテリアも引き立てる
使用する部材にできるだけ本物を用いることも、アトリエ白のこだわりです。木目風ではなく自然木を使う、塗装したプラスチックではなくアイアンを使うなど、本物だからこそ、シンプルな空間が豊かに満たされます。
壁もクロスではなく手で仕上げることであえてムラ感を出し、光が当たったときの陰影を演出。
間仕切り部の窓枠は、木を極力薄く使い塗装することでアイアンであるかのような表現に。
またインテリアにもこだわり、イギリス・アーコール社のアンティークのチェアとダイニングテーブルを配置。ミニマルな空間に長年受け継がれてきたインテリアがすっと馴染み、シンプルながらもスタイリッシュな空間へと仕上がっています。
「アトリエ白」で手掛けてきた店舗を一部ご紹介
柏原にある「山乃魚屋」は、明石近海の瀬戸内で獲れた新鮮な魚介を中心に取り扱う鮮魚店。薄いグレーと健やかなブルーで仕上げられた小粋な内装です。
印象的な大きなのれんもアトリエ白が手掛けています。
丹波の野菜を使ったメニューなどを提供するカフェ「tete」は、小さな納屋を改装してつくられました。物置として使われていた2階は吹き抜けにし、開放的な空間を演出しています。
床は土間モルタル、壁天井は白の塗り壁で、もともとあった梁はあえて露出させ、古い物がもつ独特の味わいも楽しめます。
自家栽培の野菜で作るお料理や多彩な農業体験が楽しめる「農家民宿おかだ」の2階も、アトリエ白でリノベーション。ワーケーションができる空間にしたいとの要望から、もともとの土壁を生かした落ち着きのあるワークスペースへ仕上げました。
このほかにも、古民家をリノベーションした住まいや店舗ののれんに至るまで建物にかかわるデザインを幅広く手掛けています。
空間作りの最初から最後まで携わる
アトリエ白は細見さんがひとりで運営しているので、住まいや店舗づくりをする際には細見さんが出向いてプランから工事完成まで立ち会います。マンツーマンで対応してくれるので、意図の食い違いが起こらずにスムーズに進行するのが魅力です。
デザインはアトリエ白が基点となりプロジェクトごとに大工さんや左官屋さん達とチームを組み、ひとつの建物を作り上げていく分業性を採用。「お店のロゴなど合わせて作りたい」という希望があれば、クライアントの要望に沿うグラフィックデザイナーさんを呼び込んで進めることもあるそう。「これをやりたい!」と思えば、柔軟に対応してくれるのがとってもありがたいですね。
「これから先も、自分がいいと思えることに心を向けて、一つひとつのプロジェクトに丁寧に取り組んでいきたいです。長い年月が経っても“味”として楽しめるような空間づくりを心がけ、デザインと素材選びに注力していきます」(細見さん)。
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