「大工・そういち工務店」は、大工として約30年のキャリアがある足立奏一さんが営む工務店。一級建築大工技能士で建築科指導員免許も持つ奏一さんは、適材適所に木を使いこなすことができる木のエキスパートです。SNSの発信にもたけていて、インフルエンサーとして多くのフォロワーの心をつかんでいます。
戦前に創業した3代続く工務店
約200㎡の広さを持つ作業場
足立家は、3代続く大工の家。3代目の足立奏一さんは、1933年(昭和8)創業の「足立実工務店」から独立し、自分の名前を冠にして、2010年(平成22)に「大工・そういち工務店」を始めました。
奏一さんは、営業・見積もり・大工仕事とすべて自分で行なう、いわばプレイングマネージャー。昔ながらの大工さんのやり方を踏襲しています。
お客さんの要望に対してリアルタイムに対処し、お客さんからの提案に対して的確に返事ができるのが一番の強みです。「応援は頼むけど、外注さんには極力頼らないようにしています」と奏一さん。技能者が直接仕事をするので、信用も信頼も厚いというわけです。
大工(現場監督)としては約30年のキャリアがある奏一さんですが、関西ではNO1のゼネコンとされる「新井組」で、4年間、現場監督をこなしてきました。大手ゼネコンが手がけるのは、鉄筋コンクリートの高層マンションや大手スーパーでした。会社には絵を描く設計士と構造計算する設計士がいて、それぞれの要素をまとめて、現場で施工図を書くのが現場監督としての仕事の一つだったそうです。
“木を見る”奏一さん
そんな知識もありますが、何といっても奏一さんは木の専門家。木目と木肌を見て、その木を家のどこに使ったらいいかを見極めます。例えば、節が多い木でも適した場所があるので、木の性質を利用して家を建てます。「今の大工さんは、あらかじめ工場で木材を加工したものを組み立てるプレカット工法が中心。私は長年、手仕事として木を見てきましたから、敷地条件に見合った適材適所な木の配置ができるんです。適材適所に配置すると家が長持ちするので、建てたときは分からなくても長い年数たったときに違いが出ます」と胸を張ります。
「削ろう会」でも入賞経験のある大工
大会に参加中の奏一さん
奏一さんは、鉋(かんな)削りをはじめ手道具や伝統技術の可能性を追求する会「削ろう会」の、薄削り競技に出場することもライフワークの一つにしています。
年一回程度行われる全国大会に出場し、大工としての技術を競っています。
実際、木を削る手元を見せてもらいましたが、奏一さんの手にかかれば、「これって本当に木?」と思うほど薄く削っていきます。
いかがでしょうか。本当に薄くなった木を測ってみると、何と3ミクロン。
奏一さんは1000分の1ミリメートルというミクロンの世界で木を削っています。(サランラップが約10ミクロンです)
このように薄く削るためには、技術力はもちろん、日ごろの努力を欠かさないことが重要です。
ヒノキ造りで総鉋仕上げの木造住宅を建築
木の温もりが伝わる家
こちらは、奏一さんが独立して初めて手がけた、ヒノキ造りで総鉋仕上げの木造2階建ての一般住宅です。
大きな仕事はネットで注文を受けることが多いそうで、こちらもネットからオファーがあった案件。「こんな形の家を作ってほしい」と簡単な模型も作っていたというお客さんからの要望があった家でした。床、見えている壁や天井は杉、柱はヒノキで、クロス張りの面積はたった1割しかない、木の温もりが伝わる空間です。「無垢材だけで建てているので、家に入ると木の香りしかしないんです」と奏一さんが話す通り本当に贅沢な造りです。
お客さんの要望を最優先にしているので、一般的なクロスを使った家も手がけます。
神戸市内のお客さんの注文住宅
裏から見ると一枚屋根ですが、三段棟違いの凝った造りの住宅で、要望通りの家が完成したお客さんからは、大変喜ばれたそうです。
奏一さんは、上質の材料を使って家を建てることを信条としていて、ゆっくり乾燥させた中温乾燥の木、やや強度に不安がある高温乾燥の木なども適した場所に使いながら、うまく配置します。また、ビスなど普段は見えない部分にも、メイドインジャパンものを使っています。ビス一つでもメイドインジャパンの方が、はるかに強度があるのはわかるそうです。「元請けなので、自分でよいと思った材料や資材を使って、仕事を進めることができます」と話します。
新築だけでなくリフォームも受けますが、現場までの道のりが、自動車で2時間以内の仕事が基本となるそうです。
竹中大工道具館でボランティア
「竹中大工道具館」の展示室にて奏一さんが製作した作品とともに
木造建築用の伝統的な大工道具を展示する施設で、大工さんの聖地ともいえる「竹中大工道具館」。こちらは、奏一さんがまだ駆け出しのころ、一流の大工道具を身近で見てみたい、道具の整備や調整の仕方を一流の大工さんから学びたいと、自ら門をたたいた施設です。
その後、大工としての知識や経験が上がった今でも、ボランティアの一人として、木工教室の運営のサポートや道具の使い方などをレクチャーしています。
奏一さんが作った継手の展示品
2019年(令和1)10月12日~12月15日に開催された「木組 分解してみました」展では、継手の展示品の依頼を受け、納品しました。
今後は木製家具も手がけてみたい
いろいろな木を置く作業場
オーダーメイドの家具を作るのが、奏一さんの今後の展望の一つ。
作業場には、切ったり削ったりできるさまざまな木工加工機がそろっています。
何年も寝かせた良質な木材があって、それを置ける広い環境も整い、もちろん、作った作品を展示して、お客さんに見てもらうことができるのも家具制作の醍醐味です。
ダイニングテーブル
展示台
ダイニングテーブルや、美術作品を飾る展示台と、今までに手がけた作品の一部ですが、やはり、その美しさを見れば、腕の良さがわかります。
奏一さんのInstagramは要チェック
奏一さんは、Instagramの世界ではインフルエンサーとしても活躍しています。国内外の道具や測定器のメーカーの商品をPRするアンバサダーも大切な仕事の一部です。奏一さんのInstagramを見ると、専門の業界ネタはもちろん、愛犬ネタや趣味のバイクネタなどもあって、仕事だけではなく、日常の暮らしを楽しんでいるのがわかります。
「木を触っている時が一番好きですね。自分が得た知識や経験を発揮することができる。建てたばかりだとわからないかもしれませんが、年数が経つと私が建てた家がよかったと喜んでもらえると思います。その時の最善を尽くし責任を持って仕事をしているので、万が一の不具合があれば、すぐ直しに行きますよ」と奏一さん。
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