創業からおよそ100年になる荻野製瓦工業は、もともとは瓦の製造を行っていましたが、先代が屋根瓦製造からあらゆる屋根を扱う施工業者へと事業を広げました。そして2024年(令和6)5月、四代目の荻野高広社長が新たな事業ドメインとして土のリサイクル事業を開始。他に類を見ない、土のリサイクルを中心に話を聞きました。
独自に開発した土のリサイクル事業「ツチプラス」
瓦屋根の葺き替えや土壁の解体時には必ず土が出ますが、これら大量の土は産業廃棄物として処理されています。荻野社長はここに着目し、なんとかリサイクルして有効に活用できないかと模索を始めます。関連する業者や行政に働きかけるも、幾度も壁にぶち当たりました。再生ルートが構築できても、大きく立ちはだかったのは、行政の認可を取るための手続きの煩雑さでした。
リサイクル自体には問題がなくても、前例がないため中間処理の許可の手続きに時間がかかったのです。行政側も、どの法律があてはまるのか手探りだったようで、結局許可が出るまでに8年かかりました。
そして実用化された「ツチプラス」の利点をあげてみましょう。産業廃棄物処理費用よりリーズナブル、兵庫県全域で引き取りと受け入れることができるため、現場ごとに引き取り先を探さなくてもよい、少量でも大量でも処理が可能、ということです。最新の設備を導入しているので、1日17トンの処理能力があるのです。
屋根工事の際に出る土の処理費用を減らしたいという経営者としての思いと、土を再利用したいというもったいない精神が形になった新規事業は好調なスタートをきりました。
土のリサイクル処理の流れ
具体的にどんな流れでリサイクルされているのでしょうか。工場を見学させてもらいました。まず手作業で大きな異物を除去し、機械でふるいにかけるスクリーニングを行います。その上で品質検査をし、千トンごとにサンプルを分析センターに送って有害物質がないか検査を行って、ようやく再利用できる土が完成します。
一連の処理を終えた土は、水分や異物が取り除かれてサラサラと細かいパウダー状に。再生された土は、床材として三和土(たたき)などに使えるために、主に左官屋さんが買いに来られるそうです。今後の展開として、「純粋な土なので、庭土や植物用に用途を広げたいんです。三和土のように硬い土床が作れるため、庭や駐車場の空きスペースに使えば、雑草が生えるのを阻止することもできるだろうし、20kgくらいのパックにして小売すれば、幅広く使ってもらえると思って、今実験中なんです」と荻野さん。確かに庭の草取りができないからと除草剤をまくより環境にもいいですね。開発が待ち望まれます。
産業廃棄物には、廃棄元からのルートを証明するマニフェストが義務付けられています。新しいジャンルである土のリサイクルについて、法律はまだ整備されていませんが、SDGsへの関心の高まりや規制強化によって、状況も変わってくるのではないでしょうか。土のリサイクルは、「つくる責任、つかう責任」が問われる時代にあって、先端をいく事業に違いありません。
歴史を受け継ぎ未来へつなぐ
100年の歴史の中で建築様式は大きく変化しました。瓦の素材や形も増えたし、瓦以外の屋根も随分多くなりました。代々、その時代に合った業態を取り入れてきた荻野製瓦工業。四代目として荻野さんは、どんなルートを辿られたのでしょうか。
子どもの頃から、自然に自分が跡取りだと自覚していた荻野さんは、高校を卒業すると愛知県の三州瓦のメーカーに4年間の修業に出ました。三州瓦とは、愛知県西三河地方で生産されている瓦で、日本三大瓦の1つです。
岡崎城巽閣
そこでさまざまな屋根づくりの現場を経験して知識と技術力を深めていきました。中でも印象的だったのは、岡崎城の巽閣の新築屋根工事です。二度とない貴重な機会だからと、3年の修業期間を1年のばして現場を経験しました。岡崎城といえば、徳川家康が生まれ、のちにここを拠点に天下統一への基礎を固めた由緒ある場所でもあります。荻野さんが関わった屋根がこの先も歴史を刻んでいくように、「この仕事の面白さは、なんといっても形に残ること」とのこと。
ご近所には、荻野製瓦工業が手掛けた屋根がたくさんあります。「祖父がやった葺き替え工事の改修を自身がやることもあり、感慨深いものがありますね。通りかかった時に傷みを発見することもあるし、ちょっとした工事の相談を受けたり、長年培った地域とのつながりは大切にしています」。
現在のスタッフも真面目な職人さんばかりで、チームワークよく屋根の工事をしたり、新規事業の開拓をしたりしています。若干名、人材募集を行っているので、職人としてやってみたい、地元で働きたいという人は、問い合わせてみてください。
「工事現場などで出る土を見れば、どこのものかわかります。埋め立てや廃棄された残土が環境破壊につながることがないようにリサイクルを進めたい」と結んだ荻野さんの心意気は、まさに自然体のSDGsだと感じました。
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