経営者にとって、売上をのばすと同時に、人事と労務を円滑に進めることはとても重要です。売上が伸びたとしても、社内にトラブルの種があれば事業を拡大することができません。働き方改革が重要視されるなかで、法律に準じた労務管理はどうすればいいのか、従業員とのコミュニケーションをどうすればいいのかなど、人事と労務の面で企業をサポートしているのが、社会保険労務士の浅香忠彦さんです。
銀行員時代に資格取得
社会保険労務士は、企業や個人に対して、労働に関する法律や社会保険に関する専門的な知識と経験に基づいて、様々なサポートを行う仕事です。幅広い法律の知識が必要な国家資格で、年1回試験が行われて合格率は概ね6~7%という厳しいものです。
浅香さんは、長く地元の金融機関に勤め、定年退職後に丹波で開業して6年になります。社会保険労務士の資格は40代の銀行員時代に取得。仕事に忙しいなか、休日には資格をとるための学校に通い、平日はどんなに遅く帰宅しても1時間以上勉強することを自身に課す日々を2年間送ったそうです。試験直前には、夢の中に試験問題が出てくるほどだったと聞くと、いかに大変だったかと想像できます。
そして無事に合格。銀行員の仕事に、直接社会保険労務士の資格が必要なわけではありませんが、年金などの知識があると顧客に対して、より現実的なアドバイスなどができます。そのため、自行の職員を対象に年金の勉強会を開いてレクチャーをしてきました。
定年後はゆっくりと社会保険労務士の仕事をしようと思っていたそうですが、開業がコロナ期と重なったために、相談案件が多く、いきなり忙しくなりました。コロナの影響で、多くの企業が苦しい状況に陥り、雇用を維持するための補助金申請が増えたからです。
助成金・補助金についても相談できる
最低賃金の上昇はじわじわと進み、5~6年後には時給1,500円時代がやってきます。最低賃金の上昇に合わせて売上が増えるとは限らないので、業務改善や働き方改革は必須です。労働能率を上げ、生産性向上につなげるために、早めに手をうたないと大変です。そのために使える助成金があればと考える経営者は多いでしょう。
どの助成金に該当するのかを判断するのはもちろん、申請書類づくりには専門知識が必要です。申請から決定、交付までの期間も長いので、計画的にやらなければなりません。社会保険労務士は助成金、補助金に関してもプロです。またこういった機会こそ、自社の労務全般や経営を見直し、新たな戦略を立てるチャンスでもあります。そんな時に、浅香さんの元銀行員という経験と知識はありがたいですね。
顧問先の労務管理
相談、依頼案件のなかで多いのは就業規則づくりです。経営サイドの希望を聞いて、労働基準法などを勘案して作っていくのですが、従業員の時間外労働、職場の安全衛生環境、休職から復帰する際のフォローなど、考えないといけないことは多岐にわたります。
「うっかりしがちなのが、完成した就業規則を社員に周知するのを忘れていること」と浅香さん。せっかく作ったものを伝えなければ意味がありません、こういったコミュニケーションも指導の一環です。
特に近年、パワハラの判断基準が細部にわたっているため、従業員教育も重要になってきます。労使トラブルを未然に防ぐのも社会保険労務士の役割です。
給与計算、社会保険の手続き代行など、雑多な業務を専門家としてやってもらえるのも、労務管理の社員を育てる余裕がない企業にはありがたいもの。顧問契約をしていれば、随時電話やメールで相談ができるそうです。
2025年(令和7)4月から段階的に、育児介護休業法や次世代育成支援対策推進法などの改正法が施行され、仕事と育児の両立を支援するための措置が義務付けられます。そのための準備もしておかなくてはなりません。業界を問わず人材不足には歯止めがかからず、労働条件や給与の改善は必須です。「求人票に有給日数だけでなく有給取得率も公開するほうがいい」といった、求職者の思いをふまえたアドバイスももらいました。
忙しくてもやりがいのある毎日
男声合唱団「大阪メールクワィアー」のメンバーとして舞台に
浅香さんは、度重なる法改正に対応するために、現在も地域の社会保険労務士の先生方と月1回ほどの勉強会は欠かせません。そんな忙しい日々の中でも、学生時代から続けている合唱は、男声合唱団と混声合唱団に入って練習をしているそうです。定年後は独立開業して仕事のペースをゆっくりして、趣味の合唱や旅行をするつもりだったそうですが、なかなか、まとまった趣味の時間はとれていません。「忙しい毎日ですが、顧問先に喜んでもらえてやりがいもあるし、仕事がますます面白くなっています」と浅香さん。
仕事が忙しくても体力のある40代のうちに資格をとっておいたからこそ、定年後の新しい道が開けたのだと思うと、早めに将来の準備をしておくことも大切だと感じました。いろいろな話をおだやかに説明してくださって、楽しくお話が聞けました。
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