他府県からの移住者が増えている丹波市で、今回出会ったのは古民家シェアハウスに住み、農業とクリエイティブを両立させている佐々木力哉さんです。静岡市出身の佐々木さんがなぜ丹波に来て、動画やデザインで地域を元気にする仕事をしながら、ラジオやYouTubeで多方面に情報発信しているのか、お話を聞きました。
縁あって静岡から丹波へ移住
佐々木さんが住んでいるのは、氷上町香良にある築200年以上の古民家シェアハウスです。オーナーと佐々木さん、そして画家の3人がそれぞれ仕事をしながら生活の一部を共有しています。「朝は畑仕事をして昼間はパソコンに向かって仕事、夕方はまた畑仕事というのが夏の生活スタイルです」と佐々木さん。
出身の静岡市では、新卒で食品会社に就職。商品の企画開発部門のデザイン室で、パッケージや販促物の制作に携わっていました。デザインをするのはもちろんですが、それだけではなく、商品開発から販促まで商品全体に関わっていたそうです。例えばクッキーなら、小袋に何枚入れて、それをどんな箱に入れて販売商品にするか。形や意匠はもちろん、成分表示をどの位置に入れるかなど、細かい計算をしたうえで商品パッケージをデザインするそうです。量産する食品のためコスト計算も重要だし、製造工程で作業者がロスなく動けるデザインかどうかも考えなくてはなりません。
「パッケージのせいで効率が悪くなると現場のパートさんに怒られるんです(笑)」。たしかに人手がかかると工数が増える、つまり人件費にも直結してきます。商品を詰める段ボール箱のサイズも、パレットに効率的にのるように設定します。商品開発から流通、さらには小売店舗でのPOPに至るまでを経験してきた佐々木さんは、かなり稀有な人かもしれません。
思いがけない転機が訪れた
やりがいのある仕事に従事する中、転機が訪れたのは28才の時に起こった東日本大震災でした。「災害が起こったら何もかもなくなってしまう、このままでいいのか…。本当にやりたいことはなんだろう」と立ち止まります。その時に目がいったのが、当時ハマっていたワインでした。「ワイン造りをやってみたい」と山梨に移住してブドウ農場で働きはじめたのです。
みんなで薪活 in FOREST DOOR/動画撮影・編集・デザイン監修
食用とワイン用のブドウを栽培しながら、ワイナリーの手伝いもして、知識と経験を深めていたある日、操作していた農業機械が横転して、ドクターヘリで運ばれるほどの大怪我をして退職を余儀なくされます。
約4年半ぶりに実家に戻ってリハビリをしている時に、前に勤めていた食品会社の人とばったり出会い、状況を話したところ、「帰ってこい」と。再就職後は、デザインの最終チェックや出荷などの管理者として勤務。そんな時に、丹波から来ていた現在のシェアハウスのオーナーと出会い、誘われて丹波に移住しました。それが2年前のことです。
畑仕事とデザインの仕事、そして人との交流
現在はパッケージなどの印刷物のデザイン、ホームページ制作、動画や音声コンテンツの制作を中心にフリーランスで活動しています。前職の経験から、チラシなどの平面デザインだけでなく、立体的なパッケージのデザインもできるのが強み。紙以外の素材についてもくわしく、商品ラベルをどう見せるかも的確に判断できることから、口コミで仕事を依頼されるように。
佐々木さんは、いきなり大きなロットに予算をかけるのではなく、まずは小ロットで依頼主がやりたい方向を具体的に形にします。「市場に出してみて、どう伸びるかを見たうえで改良していくやり方です。小さくスタートすれば失敗したとしても小さいですし、方向を微修正しながら一緒に作りあげていく感覚です」。
愛用のカメラ
動画はドキュメンタリー専門で、被写体となる人の仕事に対する姿勢や人となりが浮き出るような作品です。農業経験があり、商品開発から流通までの経験も豊富、ものづくりの現場をよく知るクリエイターとしての目線が映像に生きています。
自身が開墾した畑
でも実のところ、積極的に営業活動はしていない様子。「声をかけてもらえるのはありがたいし、縁がある仕事は全力でやります」と言う佐々木さんに、以前流行った「半農半X(はんのうはんえっくす)」という言葉を思い出しました。
畑仕事が得意だから、シェアハウスが持っている荒れ地を開墾して畑にしただけでなく、近所の人から預かった畑でも作物を作っています。「商売じゃなくて自分たちが食べる分だけなので、たくさん余って周りの人に差し上げています」と楽しそう。
オンラインのお寺「エア寺」
地上には存在しないオンライン上の寺「エア寺」では、サイトの運営に加えて、イベントの企画・作成からファシリテーターなど行なっています。「エア寺」は全国の僧侶や一般の人が参加するオンライングループで、月に1回Zoomで実施される読書会を主宰。これまで100回以上実施したオンラインイベントの経験から、告知と集客のためのPeatixの立ち上げ、ビジュアルの作成、インタビューなども含めてイベントの表も裏もすべて自分でやってしまうそう。
「仕事も好きですが、この地域に住まわせてもらっている一人として、近所で困りごとがあれば手伝う、まずはカラダを動かすところからですね。今の困りごとを、みんなが手の届く範囲で助け合えば、“まちおこし”と言わなくても自然にまちが元気になると思うんです。畑仕事をしながら地域のいろんな人と出会って、美味しいご飯を食べて生活できる。それが幸せだと実感しています」と言う佐々木さんから、充実した暮らしぶりが伝わってきます。
シェアハウスで暮らす3人分の三食はすべて佐々木さんが作っています。料理が得意でワイン選びの知識もあるため、地域の人が集まる不定期の食事会でも腕を発揮。「一緒にごはんを食べるとぐんと距離が縮まるし、思いがけないアイデアと出会えることもあります」。そんな話をする佐々木さんはとっても楽しそう。ここは、佐々木さんにとって自分らしい暮らしができる場所なんですね。
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