「10年ぶりの丹波はキラキラしていた」老舗和菓子店が見据える丹波と未来

明正堂

1930年(昭和5)に創業し、90年以上もの間丹波の地でお菓子作りを続けてきた「明正堂(めいせいどう)」。ひとり息子として育ちながら、「高校3年生までお菓子作りにはほとんど携わってこなかった」という吉竹仁人さんが、今では主力商品をしっかりと受け継ぎ、新たな視点で商品開発を行うなど、積極的に運営します。その転機となった出来事とは。

“丹波”を感じる和菓子「明正堂」

初代がこの地で1軒の駄菓子屋をはじめたことが明正堂のスタートです。その後徐々に駄菓子販売からお菓子の製造販売へと移り変わり、現在のような本格和菓子店へ。一つひとつのお菓子に喜びの心を込めて作る「一菓喜心(いっかきしん)」を念頭に、真心のこもったおいしいお菓子を販売しています。

店内には90年の歴史を今につなぐ和菓子がずらり。初代から受け継がれ次の時代へも目を向けた「伝創寶菓(でんそうほうか)」と、丹波でとれる素材を大切にした「丹波寶菓(たんばほうか)」の2種類にカテゴライズされ、伝創寶菓はとくに地元の人に、丹波寶菓はとくにお土産として人気です。

「おさんの森」150円(税別)

中でも明正堂の名物といえば、最中「おさんの森」。近松門左衛門の作品「おさん茂兵衛」の舞台が丹波であったことにちなんで初代が考案し、最中を山のような台形に仕立てています。サクサクの皮の中には、甘さ控えめのつぶあんとほっくりとした栗の甘露煮、歯触りのよいお餅が入り、小粒ながら食べ応え抜群です。

なお、最中にお餅を入れ込むのは、当時としてはちょっと珍しいことだったのだそう。初代の遊び心あるこの仕掛けが、その後数十年にわたって絶えることなく受け継がれているとは、なんとも感慨深いものです。

10年間の厳しい修業を経て家業を支える

明正堂の長男として生まれた吉竹さん

吉竹仁人さんは、そんな明正堂の4代目を受け継ぐべく、2011年から3代目の父とともに明正堂を支えています。家業を継ごうと決心したのは高校3年生のときでした。

「イベント出店をするときに、少しだけ店を手伝ったんですね。そこで父の仕事ぶりを改めて見て、興味がふっと沸いたんです。そんなときにお客様と初めて接し、『お父さんにはいつもお世話になっているんですよ』とか、『いつもおいしいお菓子をありがとう』とお声をかけていただき、ああ、父は明正堂という店を誠実に守り続けていたんだなと素直に感じて。思い切って飛び込んでみるのもいいかもしれないと思いました」。

そこで、まずは祖父の知り合いを伝い、宝塚の和菓子店へ修業の名目で入店。もちろんすぐに和菓子作りができるわけもなく、お菓子の包装や洗い物をこなす日々が始まります。さらには“修業”と“一般入社”では従業員としての扱い方も異なり、先輩からは厳しく指導されつつ、お給料もぐんと低かったといいます。

吉竹さんのほかにも修業で入店した同期や後輩がいましたが、あまりの厳しさに次々と退店。吉竹さん自身も、何度も「もうやめよう」と思うことがありました。けれど、曽祖父、祖父、父と大切につないできた明正堂をなんとか次世代に残したい、そんな強い気持ちが心を支えました。

結果、包装・洗い物だけをこなす3年間を経て、次第にあんこ作りや練り切りなども任せられるようになり、ついに5、6年目には現場トップである工場長に就任。修業先からも「このまま残ってくれないか」と懇願されるまでになります。

実はその頃、宝塚での暮らしにも慣れ、責任感のある仕事に充足感もあり、このまま戻らなくてもいいかもしれない、という気持ちが少なからずありました。そんな吉竹さんが宝塚での地位を捨て地元に戻ったのは、丹波の魅力に改めて気づいたからだといいます。

「10年間外で暮らし、丹波や柏原という土地を客観的に見たときに、この場所がすごくキラキラしていたんです(笑)。丹波っていいなって心から思って。明正堂をなくしたくない気持ちはもちろんあったんですが、何よりここで根を張って生きていきたいって思えました」。

新たな感性で仕立てるお菓子が続々登場

明正堂のチーフとして改めてスタートしてからは、父とともにお菓子作りに邁進する日々。それまで工場長として何人もの従業員を束ねていた吉竹さんと、丹波で実直にお菓子作りを続け、“和菓子職人が作るプリン”など洋菓子にも挑戦して新たなファンを獲得してきた父。

「距離が近いのでぶつかることはあります(笑)。でも僕の意見を尊重してくれますし、何より僕自身学ぶべきこともたくさんあって、充実した毎日です」。

そんな吉竹さんが今取り組んでいるのが、SDGs(エスディージーズ)の考えに基づいた商品作りです。SDGsとは国連が提唱する「持続可能な開発目標」を指し、貧困や飢餓、環境などを念頭に置いた暮らしや商品開発を行う取り組みのこと。食品ロスや廃棄物の削減もSDGsの目標のひとつです。

「とのわ」88円(税別)

食品ロスをなくすべく開発したこのクッキーは、丹波産黒豆の中でも市場に出回らず肥料として使われる“かす”を挽いたきなこを生地にたっぷりと練りこみ、最中の皮に入れて焼き上げています。また、今は使用していない最中の型を再利用しているのも特徴です。

“人と人の輪”との意味を込めて「とのわ」と名付けたこのクッキーは、新聞などでも取り上げられ、発売1週目で1,000個を売り上げるほど大評判に。1個の売り上げにつき1円が飢餓を救う団体への寄付金となり、顧客も気軽に社会貢献できます。

「こういった取り組みは積極的にやっていきたいし、1店だけでなく地域全体で意識を高く持つことで活性化にも繋がると思います。地元の青年部にも所属しているので、みんなで一丸となって丹波を盛り上げたいですね!」。

明正堂の若きホープ、そして周囲の人々が作り出す丹波の未来は、とても明るく光溢れていることでしょう。

 

<注意事項例>

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