丹波の空き家相談所
空き家の増加は日本中で社会問題となっています。離れて住む身内が相続したものの、住む人がいなくて傷んでいく家を見るのはせつないもの。ご近所に迷惑をかけているのではないかと思うと、気がかりは増えるばかり。そんな人が相談に訪れるのが、「丹波の空き家相談所」西垣雄一さんの事務所です。
相続したけれど、どうにもできなくて空き家に……
丁寧に話を聞いてアドバイス
空き家問題は丹波市も例外ではなく、不動産業者に仲介を依頼しても、何年も買い手がみつからないことが多々あります。特に、まちはずれの物件や空き家になってからの期間が長いと、買い手が現れるのは厳しくなります。
依頼主の馬場和正さん(左)と西垣さん
空き家の多くは、住んでいる高齢者が亡くなって、別の場所に住む親族が相続した場合におこります。はじめのうちは管理のために時々訪れていますが、年月とともにそれもままならなくなります。手放すことを考えたとき、できれば高く売りたい。でも売れなくて、家はどんどん傷んでいく。防犯面や景観面でご近所の目も気になる…。困り果てて市に寄贈しようと相談するけれど、そう簡単にはいかない。誰か引き取ってほしい…。それが本音になってきます。
持ち主は決してお金がほしいわけではなく、固定資産税を払い続けるのがつらいわけでもありません。先祖から受け継いだ家への責任感と思い出に、どう折り合いをつけるか、重荷を背負った状態で悩んでいる状態なのです。なにかと問題の多い古い空き家。西垣さんは、そんな物件を引き取ってリフォームし、新しい主を探します。決して資産価値が高いわけではないのに、なぜ…?
空き家との出会い、そして縁をつなぐ
ウッディな室内にリフォーム完了
散らかった荷物を片付けた後の状態
不動産業界で培った知識を生かして起業するために、丹波市にUターンした西垣さん。はじめは一般的な不動産を扱っていましたが、あるとき骨董屋の知人から「困っている人がいるから」と相談を受けます。聞けば、相続した家をまるごと処分してほしいとのこと。長年の経験からみても、おいそれとは売れそうにない古い家。でも、なにか可能性があるかもしれないと思い、安価で買い取りました。仕事の合間に中を片付けるうちに、不動産業者同士の口コミで興味をもつ人が現れたのです。
築70年の物件、屋根は朽ちかけ、水回りは古い状態ですが、躯体はしっかりしています。その人は気に入って、すぐに購入を決めました。自分で好きなようにリフォームしたい、その過程を楽しみたいという考えの人だったのです。西垣さんは本当にこの物件でいいのかと半信半疑でしたが、「リフォームして売るだけがニーズではない」ことを知るのです。
後日、売り主だったAさんとばったりまちで出会いました。開口一番、「西垣くん、ありがとう」とAさんから感謝の言葉が飛び出しました。久しぶりに実家の前を通ったら、庭が綺麗に整えられて子どもの自転車があり、窓から楽しそうな声が聞こえてきたとのこと。自分が生まれ育った家で、誰かがまた思い出を刻んでいる、その様子を知って心から安堵したそうです。それを聞いた西垣さんは、この仕事の意味を見出しました。
丹波の空き家がゼロになるまで続けていく
ときには屋根の修理も自身で行う
それからは、空き家の専門家として舵をきりました。一般的な不動産を高く売りたいという話がくると、他の不動産屋に紹介してしまいます。不動産業にとって、扱う物件が多いことこそ商売の要なのに、あっさりと手放したことに驚いていると、「空き家にはそれぞれの歴史があります。やむなく手放す人、求める人、双方をつなぐことが自分の役割だから」と西垣さんは静かに言いました。
木造住宅の解体処分費用は10年前の2倍にまで高騰しています。相談に来る人は、「子どもの代になってから負担をかけたくない。自分が元気なうちに片付けたい」という気持ちが強いようです。将来、身内の誰かが住む可能性がなければ、相続した本人の気持ちへの負担ははかりしれません。
生まれ育った家、思い出のある家を手放すことは、できれば考えたくないもの。でも、もしかしたら、自分たち以上に大切に住んでくれる人がいるかもしれない。何十年と家人の思いを刻んできた家は、周りの風景も含めて、人々の心に残っています。大切な思いをつなげていくのが西垣さんの仕事なのです。
2021年から相談所としてオープン予定の物件(丹波篠山市)
今手がけている丹波篠山市の物件も空き家になっていたもので、部屋の中は散らかり放題。「まずはこれを片付けるところからはじめて、しばらく事務所として使います」と西垣さん。簡単な大工仕事もこなし、新しい持ち主にバトンタッチできる日を楽しみにしています。
<注意事項>
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