守りたい伝統の味。手間隙かけた昔ながらの製法を貫く極上のこんにゃく店

芦田こんにゃく店

ぷるっとツヤのある見た目でお馴染みのこんにゃく。これからの寒い季節、鍋物にも欠かせない食材ですよね。食物繊維たっぷりでカロリーも少なく、ヘルシー食材としても脚光を浴びていますが、どのように作られているのでしょうか。昔ながらの製法を守る丹波市市島町の「芦田こんにゃく店」に伺ってみると、多くの発見がありました。

工場内

こんにゃくの90%は水分なのでカロリーが少ない

茹でずに使える、染み込みの良い職人手造りのこんにゃく

こんにゃくの大きな塊を3等分する道具

朝5時に起きてこんにゃく作りに取り掛かるのは、職人の芦田伊佐雄さん。奥様と2人で1日に3600枚ものこんにゃくを製造し、小売店や学校給食用の他、高級和食店にも卸しています。

ラインナップは20種類近くあり、定番の平こんにゃくや糸こんにゃくはもちろん、おでんや肉じゃが、きんぴら用など料理に合わせた商品を展開。

こんにゃくを均一に平たく切る道具

味がしっかり染み込み、噛んだときにジュワッと広がる美味しさは、手間隙かけた手造りだからこそ。下茹でいらずでそのまま簡単に使えるのも主婦の嬉しい味方です。

価格競争に飲み込まれず、こだわりの伝統製法と高品質で勝負

芦田伊佐雄さん

1887年(明治20)創業の歴史あるこの店で、こんにゃくを作る父の姿をずっと見てきた芦田さんにとって、それを引き継ぐのはごく自然なことでした。

以前は兵庫県内に200軒近くあったこんにゃく店も現在では20軒程度に減少。職人の高齢化に加え、大手の大量生産による価格破壊に太刀打ちできない小さな個人店の閉店が相次ぐ中、4代目の芦田さんはあえて逆の発想で差別化を図ることにしました。最新機械による時間の効率化よりも伝統製法にこだわり、倍の時間をかけて高品質の昔ながらのこんにゃくを作り続けることにしたのです。

原料となるこんにゃく芋の粉は名産地の群馬県から

さらに、素材も最高のものを使用。メイン原料のこんにゃく芋は名産地の群馬県から粉状で仕入れ、肝心の水は市島町の地下水を汲んでいます。市島町の水は超軟水で、丹波市の酒蔵が仕込み水に使うほど美味しい水です。

アク抜き不要 つるつるしない食感こそが昔ながらの味わい

伝統のバタ練り機。機械の動きがバタバタするから「バタ練り」と呼ばれるのだとか

こんにゃく芋の粉を水で溶き、凝固剤となる石灰を混ぜて練ったものを炊く、というのが基本的なこんにゃくの作り方。今では、石灰の投入まで自動で行える楽な機械もありますが、芦田さんが貫くのは手作業の多いバタ練り製法です。

 

手の感触を頼りに、気温や湿度、さらに芋の質によって石灰や水の配合を変えるのは、まさに匠の技。50年ほど前に主流だったこの製法を続けているのは、兵庫県内でもたったの2店のみとなりました。

市販で安価のものは、固めるための石灰が多く入れられるため、調理前のアク抜きが必須。個包装された状態で炊かれるので空気が入り込まず、表面がつるつるしています。

一方、芦田さんのこんにゃくは芋粉が多く、石灰が少なめでアク抜きがいりません。さらに、バタ練り製法では空気が入り込んでぷつぷつと穴が開くのがポイント。この小さな穴に味が染み込んでゆくのです。

バタ練り製法では、表面が凹凸になり味が染み込みやすい

「こんにゃく自体には味がない。染み込み具合が美味しさの決め手になる。」

と芦田さん。プリッというよりもシコシコの食感。コシのある弾力とざらざらの歯ざわりは、昔ながらの味わいを残していますが・・・

「食べ物とは怖いもので、食べ慣れたもののほうが美味しいと感じられるようになる」

と、市販のこんにゃくが当たり前の人にとっては、伝統こんにゃくの食感がおかしいと感じられることも。伝統と消費者感覚の間にジレンマも抱えています。

 

受け継がれる和食文化 生芋から作る先代のこんにゃくをもう一度

こんにゃく芋の収穫期は11月なので、こんにゃくは冬の鍋料理などによく使われてきた

それでも芦田さんは10年ほど前から、更なる伝統製法でこんにゃくという和食の文化を追求するようになりました。群馬県からこんにゃく芋そのものを取り寄せ、生芋からの生産を再開したのです。

芋を15分ほど蒸し、すりつぶして粉々にしたものを1時間ほど寝かせるという本来の方法は、先代のお父様から改めて教わりました。

もともとそのままでは食べられないほどえぐみのあるこんにゃく芋から作るため、芋の風味が強く、歯ごたえも抜群。芋の皮やアクが混ざり、茶色っぽい色合いになるのも特徴的です。

生芋こんにゃく(中央)は薄茶色

「実は白い粉から作る現代のこんにゃくは白い仕上がりになる。が、生芋から作っていた頃のような色のあるイメージが定着しているため、海藻粉を加えて色付けしている」と芦田さん。見慣れたグレー色が作り出されたものだったとは驚きですね。

こんにゃく特有の色は海藻粉による色付け

 

時代とともに、作り方や形状が変化してきたこんにゃく。生でも食べやすい刺身こんにゃくは、からし酢みそを付けるだけでおかずの一品に。また、黒豆入りなど丹波素材を取り入れたオリジナル商品もあります。「芦田こんにゃく店」では直売もしているので、伝統の味を作り立てでも購入可能ですよ。

 

text:新宅裕子

 

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