酵母から育て無添加で、シンプルながら個性豊かなパンを焼く

自然酵母の店 よしだ屋

小麦粉、酵母、塩。材料はこれだけなのに、優しくてほんのり甘いフランスパン。食べるとふんわり、もっちり。どこかチーズのような香りもして、「どうしたらこんなパンになるんだろう」と、思わず眺めてしまいます。「自然酵母の店 よしだ屋」は、麹や有機レーズンを使って店主自ら酵母を起こし、添加物を使わず、味わい豊かなパンをつくっています。

ひとたび食べるとファンになる

店の看板商品であり、店主・吉田賢一さんが一番おすすめする「フランスパン」は、冒頭の通り、北海道産小麦粉、自家製酵母、塩しか使っていないのに、ほんのりチーズのような香りがします。この「酵母」は、米麹を使ったもので、酒種酵母とも呼ばれます。米麹の発酵した香りが、発酵食品であるチーズと似ているのかも。ほかではなかなか味わえない、シンプルながら特徴のあるフランスパンです。

「米麹食パン」も、基本素材は北海道産小麦粉、米麹酵母、粗糖、塩。ふわりと香る酵母と粉の香りに癒されます。蒸しなおして食べると、もっちりふわふわと柔らかく、焼きなおすと表面はさくっと、なかはむちっとして、また違った味わいに。レーズン酵母を使った食パンもあり、軽めの食感。どちらも甲乙つけがたいので、見つけたときは是非どちらもお試しください。

小麦粉は北海道産のほか、パンの種類によって岩手産や丹波市産の有機全粒粉を使うことも。

吉田さんが「ぜひ食べてみてほしい」とオススメしてくれたのは、「米麹デニッシュ」(写真左)。一見、いわゆる「デニッシュ」にはあまり見えず、どこか地味な気配すらしますが、「実はこれ、失敗から生まれた傑作なんです」と吉田さん。通常クロワッサンをつくるとき、パン生地にバターを練り込んでこねますが、なぜかそのとき、バターを練り込まず、包んだまま一次発酵してしまったのだそう。「成形しようと切り分けたら中からそのままバターが出てきて(苦笑)」。捨てるのはもったいないからと、丸めて焼いたところ、「美味しい…!」と、結果的に大成功。クロワッサンやデニッシュほど層は重なっていませんが、表面にできた軽い層がさくっと食感を生み出し、中の生地はもちっと、バターの塩味がじゅわっと…。初めての出会いです。

地元の牛乳と卵を使った自家製カスタードクリームの「米麹クリームパン」(写真右)も人気。米麹酵母を使ったもっちりのパン生地に、カスタードクリームのなめらかさ・甘さ・量がとても良く合っていて、リピート必至です。

運命的に出会ったフランスパンが道を開いた

吉田さんは高校卒業後、設計士になりたいと市内の設計事務所に勤めます。約20年間設計士としてやり切ったと感じ、次の人生を考え始めました。奥さんと休日にはパンやケーキの食べ歩きをしていたり、奥さんの助言もあって、天然酵母パンに興味を持ちました。「当時、天然酵母のパンと言えば、酸っぱくて硬いというイメージがあって、しかもパンづくりは未経験。これは修業に行くしかないと思いました」。

吉田さんは、神戸、京都、大阪、奈良などあちこち探しまわりましたが、なかなかピンとくる店と出会えなかったと言います。これで最後にするか…の気持ちで行った、西宮・有馬の自家製酵母パンの店。そこで食べたフランスパンに感動し、弟子入りを決めました。それが、いま吉田さんがつくっているフランスパンにつながります。

現在吉田さんが使う酵母は2種類。有機レーズン酵母(写真右)は、酵母起こしに5日~10日ほどかかりますが、一度起きれば発酵力は安定しているので、扱いにさほど苦労はしないのだとか。一方、米麹酵母は、気温にもよりますが、3日程度で起きます。しかしすぐに絞ってパンをつくらないと、酸っぱくなったり硬くなったりするそうです。

それでも、「この風味はこの酵母でしか、このやり方でしか出せない」と、吉田さんは自信を持って毎日酵母の世話をしています。

この日は、あんぱんの販売はありませんでした。あんこは自家製、小豆は自家栽培なので、「小豆がないとき、あんぱんはつくりません。小豆のほかにも、野菜などもっと農業のほうにも力を入れて、それを使ったカレーパンとかお惣菜パンもつくってみたいんです」と、吉田さんは柔らかに話します。今は子育てが忙しいこともあって、「もうしばらくお預けかな」と笑います。

つくり手の人柄がにじみ出る

JR柏原駅の近くに店を構えていますが、道の駅・おばあちゃんの里での販売も時々行います。また、近隣他都市も含めたマルシェなどのイベントに参加することも多いそう。「もともと、イベントの雰囲気が好きなんです。出店中も、隣のお店の方と仲良くなったり、いろんなお店をまわったり。イベントのときだからこそ出会えるお客様もいて。楽しんでいます」。

(道の駅での販売日やイベント出店については、下記ホームページ内で確認してください)

市内のお客さんだけではなく、阪神間や加古川など遠方からわざわざ訪れる方も多い「よしだ屋」のパンは、派手さはないけれど、一つひとつのパンに優しさを感じ、ふっと気持ちが軽くなるような、穏やかさがあります。それこそが、つくり手がもたらす個性、味なのかもしれません。

「小さくても、自分のできる範囲のパン屋でいいんです」と、控えめに語る吉田さんでしたが、「自分が美味しいと思えないパンはつくらない」という信念は、静かに熱く、そこにあるのでした。

 

<注意事項>

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