スリランカで学んだスパイスづかいに、丹波や近隣の食材をあわせたスリランカカレー

サカイヤ食堂

スリランカカレーの移動販売をする「サカイヤ食堂」は、丹波界隈のパン店やコーヒー店などでの間借り出店、そしてイベントでの出店を主に営業しています。店主の酒井克之さんはスリランカに武者修行に出て、本場のスパイスづかいなどを取得。日本人にも食べやすいオリジナルの調合に仕立て、今やリピーターも多いカレー店です。

口のなかで合わさったときに、五味が調和する塩梅を見つける

メインとなる主菜のカレー(この日は「スリランカチキンカレー」と「スリランカ豆カレー」)の周りに副菜が数品並びます。1品1品が個性を持ちつつ、口に入れたときの五味(酸、甘、辛、塩、苦)のバランスを大切に調理します。主菜のカレーも副菜も、季節や日によってラインナップが変わりますが、どれもスリランカで習ってきたことを活かして、一つひとつ手づくり。
この日の副菜のひとつ「しいたけの甘酢スパイス炒め」は、生しいたけを素揚げしたあと、スリランカの調味料やスパイスで味付け。オプションで付けられる辛味の「クニシソーミリス」というエビ殻入りのチリペーストも、2種の唐辛子や各種スパイスなどを調合した自家製です。

「スパイスはスリランカのものですが、野菜などの食材は、なるべく四季に添った、丹波やこの近隣のものを使うようにしています」と、酒井さん。この日の米は丹波米、スリランカではお祝い時に使うというターメリックをあわせました。海塩や未精製糖を使うこともこだわりのひとつです。

スリランカにしかないスパイスは、現地の友人に送ってもらいます。しかし現在、スリランカは経済危機に陥っています。「今現地では、食料品をはじめ、思うように物が手に入らないそうなんです。友人もガソリンを買うのに6時間並んだと言ってました。心配です」と、気にかけます。
酒井さんは料理修業のため、2度スリランカを訪れました。1度目は2018年(平成30)に1カ月。そのあと、2019年(令和1)12月~翌3月の約3カ月かけて、スリランカのほか南インドやミャンマーなどにも赴き、各地の料理を食べ歩いたり、料理教室で現地の味を学びました。このときの経験が、今のサカイヤ食堂のベースになっています。

独学に限界を感じ、スリランカに修業の旅へ。

酒井さんがこの道に入ったきっかけは、7年ほど前。タイ料理のイベント出店をしていた友人二人に、「一緒にやらないか」と誘われたのが始まり。丹波や淡路島、神戸などでのイベントに「遊びの延長みたいな感じでやってましたね」と笑います。やがて、ワケあって3人は解散となりましたが、「調理道具やスパイスなどの調味料がうちに置いてあって処分するのももったいなくて。なんとなく“カレーでもやるかぁ”って気持ちで、一人でイベント出店をやりはじめました」。

始めるにあたっていろいろなカレー店を食べ歩き、「自分のなかでスリランカの味が一番好きだった」と、スリランカカレーに軸を置くことに。やがて、数万人規模の大きなイベントや音楽フェスなどにも声がかかるようになりましたが、会社勤めをしながらのイベント出店。全て一人で切り盛りして、てんやわんや大忙しの日々でした。

料理教室に通うなどして独学しましたが、「今考えたらあのときのカレーはひどい!」と、振り返ります。自分の味に自信が持てないため、低価格に設定してしまい、「毎回100食くらい出してめちゃくちゃ忙しいのに全然儲からない、うまく回ってなかった」。そんな様子を見ていた友人から、「スリランカで習ってこい!」と一喝されます。
様々なご縁がつながって、現地でカレー店を営む人と出会い、そこでスパイスの使い方などを教わります。現地の料理教室にも通い、スリランカの暮らしのなかでスパイスがどのように馴染んでいるのかを会得しました。

2019年(平成31)に帰国し、また会社勤めをしながら週末はイベント出店、という日々を送りますが、仕事中に事故に遭ってしまいます。「生死をさまようほどの事故で、3カ月ほど入院しました。このとき、人はいつ死んでもおかしくないんだな、やりたいことをやっておこう、と思った」そうです。そして、会社勤めを辞め、スリランカ以外の国の料理にも触れようと、3カ月ほどスリランカ、ミャンマー、南インドをまわります。

生死をさまよい、覚悟を決める。キッチンカーでの移動販売。

様々な人や味に出会って満喫した修行旅行を終え、2020年(令和2)3月に帰国したものの、コロナが日本でも猛威を震い始めていました。4月からは兵庫県の某大学構内でのキッチンカー販売が始まる予定でしたが、それもできなくなり、厳しい時期を数カ月過ごします。
伊丹や丹波篠山、神戸、大阪などで少しずつ移動販売をスタートさせますが、「自粛」の波に飲まれ、なかなか成果が出ません。

「どこに行っても同じなら、地元の近くで、自分自身が心地よい場所でやろうと考えました」。そして、友人を通してカレーと相性の良いパン(三田のキビトパン)やコーヒー(丹波篠山のマグナムコーヒー)などの店前で販売できるように。
毎週同じ場所に出店することで固定客がつき、「地元の人だけじゃなく、大阪や京都、奈良などから来てくださるお客さんも多くてありがたいです」。遠方に引っ越すことになったとわざわざ立ち寄って、「来れなくなってしまうのが本当にツライ」と報告してくださるリピーターもいらっしゃったそうです。

スリランカや南インドなど現地で習ってきたことをベースに、その時々の食材にあわせてスパイスを調整して料理を仕上げます。この日はスペシャルトッピングとして「鶏レバー・ハツのカレー」がオプションでつけられますが、ホタルイカになったり、ラム、スペアリブになったりと様々。「一応レシピはありますが、それよりも、食材との出会いから生まれるそのときの自分の感覚を大切にしてつくっています」。

料理は、作り手の技術や経験もさることながら、「その人の全てが出ると思うんです。がんばってきた人生全部」、と酒井さん。料理をするときも、お客さんと話すときも、「その瞬間を大切にしています。1分後、2分後だって何が起こるか分からない世の中なんです。だから、どんなときも“今”をちゃんと感じて生きていきたい」。近い将来、またスリランカを訪れ、友人たちに会える日を思いながら、自分のカレー道を究めていきます。

 

<注意事項>

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