「最近この技術が出て、ウェアプリント業界がざわめいています」と話すのは、この道約40年の株式会社フォーティーンの代表取締役社長・吉見宣行さん。衣類にプリントする従来の転写プリンターでは、フルカラーでここまで繊細な絵柄をキレイに仕上げることは容易ではなく、手練の職人技が必要だったそうです。2022年(令和4)春にこの新型転写プリンター(DTFプリンター)を導入してから吉見さんが実感しているのは、デザインデータの再現性が高く、複雑な絵柄も簡単に早く仕上がり、洗濯耐性も強いということ。画期的な機械である一方、使いこなす技も必要ですが、同社には「これまで積み上げてきた高い技術があるので、習得は早かった」と、自信をのぞかせます。
最新の機械に、繊細な職人の技術力という合わせワザ
「うちの強みは、なんといっても細かい作業をキレイに仕上げられること」と、吉見さん。従来の転写プリンターは今でも主力ですが、デザインを一枚のシールに転写し、絵柄以外の不要な部分は手作業で切り落とす工程があります。そこに職人の長年の技が必要となるため、同業他社が「教えてほしい」と訪れることも少なくありません。
新しく開発された転写プリンター(DTF)は、その煩雑な切り落とし作業が必要ありません。ノリのついていないシートにデザインとノリを同時に印刷。これによって、非常に細い線やエッジ、入り組んだデザインも、キレイに仕上がります。仕上がりは衣類のプリント部分のごわごわ感が軽減されるうえ、通気性も良くなり、快適な着心地を実現できるようになりました。
シートを衣類に張り付けたあと、シートを剥がす必要があるのですが、その際に同社の高い技術力が本領を発揮します。「デザインを転写して、プレスして、シートをただめくったら完成ではありません。ノリをデザインからはみ出ないようにミリ単位で調整したり、シートを衣類に熱するときの温度や圧、時間、めくるときのタイミングや角度などは人間の手が必要で、仕上がりの良し悪しを左右するんです」と、吉見さん。シートをめくる際に失敗すると、通常は取り返しがつきませんが、同社の職人の技術なら修復可能なケースも多くあるようです。
いち早くデジタルの転写プリント技術を取り入れた
吉見さんが会社を立ち上げたのは1988年(昭和63)、当時はシルクプリントを行っていました。シルクプリントとは、衣類に絵柄をプリントする際に、1色ずつ版をつくり、版ごとに印刷して色を重ねていく方法。当時主力の取引先だった衣類小売店が事業拡大し、国内での製造だけでは追いつかなくなり、プリント工程を中国に移設。日本の大手製造企業がこぞって中国へ工場を構えた時期です。賃金の安い中国へどんどんと仕事が移行し、日本でのシルクプリント製造は激減していきました。吉見さんも取引先の依頼で中国へ行ったこともありましたが、「やっぱり丹波を拠点に仕事がしたい」と、中国に工場を移すことはしませんでした。
そんなある日、吉見さんは展示会で、「転写プリント」を目にします。シルクプリントの仕事が徐々に減り、危機感を抱いている中での出会いでした。「特に、“これはすごい!”とか“ピンときた”というわけではありませんでした。何か別の手を打たねば…と思っていたときだったので、“ひとつやってみるか”、くらいの感じでした」と、2002年(平成14)に転写プリントの機械を導入します。
しかし、アパレル業界ではシルクプリントが当たり前で、「転写プリント」はまだ知られていない状況。シルクプリントの仕事はどんどん減っていく、転写プリントの認知度も低い…という厳しい時期が5,6年ほど続きました。
前を走り続けるために、努力も挑戦も惜しまない
そんなとき、取引先の一つだったイベント会社から、大学の学祭で使うスタッフジャンパーで転写プリントを試してみたいというオーダーが入りました。「その会社との仕事がうちの技術力が上がるきっかけになりました。通常、シルクプリントでは1枚追加で、というような細かいオーダーは受けません。すごく高くついてしまいますから。でも転写プリントだと1枚からでも追加可能。そんな融通をきかせつつ数をこなすうちに、いろいろなテクニックも身に付いてきました」。やがて、インターネット販売も始めると、大学のサークルや少年少女スポーツクラブ、子ども会などで、衣類のほかにキーホルダーやマグカップ、帽子などの小物類への小ロットフルカラープリントのオーダーが入りはじめました。
シルクプリントは色ごとに版が必要なため、小ロットのフルカラーだとコストがかかりすぎ、対応できる業者がなかなかなかったそうです。一方、転写プリントはデータでデザインをつくるため版が必要ありません。吉見さんは、「小ロットでフルカラー」を求めるニッチな需要を拾い上げることに活路を見出しました。そのうち、ほかの取引先や競合他社も転写プリントに興味を持つところが増えていきました。
「不可能でないかぎり、なんでもやりますよ、というのがうちのスタンス」と、吉見さん。最新の情報を常につかむ努力をし、面倒なことでも丁寧に向き合う、そしてお客様の要望にできる限りこたえる…。そんな真摯な姿勢が、多くのリピーターに繋がっています。「そのせいなのか、転写プリントに移行してからは、売上は右肩上がりです。飛躍的に上がることもないけど、急に落ちたこともありません」と、振り返ります。
「お客様から、どこに聞いても“できない”と断られたのにフォーティーンさんは引き受けてくれたと喜んでもらえると嬉しいですね」と、吉見さん。チャレンジすることが好きで、「新しい機械が出たらすぐ飛びつくタイプ」と笑いますが、実際、何百万円、数千万円もする機械を入れたとたんに中国に仕事を取られ、無用の長物になってしまったことも…。「そういう失敗も含めて楽しいんですよね。新しい技術を使って、人ができないということを丁寧に細かい技術で叶えていく、その過程が楽しい。うまくいかないこともあるからこそ、やりがいがあります」と、語ります。
7年ほど前に出店した大阪店も、息子さんが店長として切り盛りし、軌道に乗っているようです。「全国展開とまではいきませんが、今後は拠点を増やすことも視野に入れています」と、また新たな挑戦を考えています。
どの業界もそうですが、「常に新しい情報を手に入れ、前を走り続けることが大切」だと吉見さんは説きます。だからこそ、全国の展示会やショールームに足繁く通い、人間関係の構築や情報収集に努めてます。トップオブトップでないにせよ、「前の方」に居続けるためには、「より丁寧に、より早く、そして柔軟に対応することが、うちの生き続けていく道だと思っています」と、力強く話してくれました。
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