丹波の食材で、おもしろい「こうじ」を醸す

おかしなこうじや

「おかしなこうじや」という、こうじ専門店が丹波にできました。「こうじ」とは、日本酒や甘酒、醤油、味噌、酢、焼酎など日本の発酵食品に欠かせないものです。和食が生み出す旨味のもと、と言ってもいいかもしれません。近年、こうじに塩や醤油などをあわせて発酵させる塩こうじや醤油こうじが流行り、調味料として定着してきました。これらは自分でも手軽につくれるので、こうじ自体を購入する人も増えているようです。
日本人にとってなくてはならないこうじ界に、新たな風を巻き起こし、挑戦を続けている店主の本間速さん。彼が醸すこうじの世界をご紹介します。

こうじを通して丹波の素晴らしさを伝える

「こうじ」を表す漢字は2種類あり、「麹」は中国由来、「糀」は日本発祥。米にこうじ菌がつくと花が咲いたように見えたことから使われ始め、一般的には米糀をさします。同店では、店名の通り、「米糀だけではなく、あまり見かけないちょっと変わったこうじをつくりたい」という本間さんの思いから、白米や玄米に加えて、そばや豆、オートミール(終売予定)などのこうじをつくっているため、「麹」の字を当てています。
(※以下、本間さんの商品には「麹」、そのほかには「こうじ」と表記しています)

2021年(令和3)に工房がオープン。販売店舗はなく、インターネットやイベント出店などで購入することができます。一番人気は白米の「米麹」(写真右)。一般的に、こうじはほかの食材と醸すことで甘みや旨みを持つ食品を生み出しますが、同店はオリジナルの製法で、こうじ自体が甘いのです。「ある日、うっかりミスったんです。それが功を奏して甘いこうじができた。偶然の産物です」と、本間さん。後日、その原因を再考し、甘みを引き出した結果に合点がいき、独自の製法として確立させました。
米は、神崎郡で代々米農家を営む実家のコシヒカリを使用。さらに、こだわりの栽培を行う丹波の米農家と直接取り引きし、そのうち氷上町・宮垣農産の有機白米を使ったこうじは「丹波を醸す」シリーズとして販売しています。
白米のこうじのほか、泡盛に使われる黒こうじ菌を使った甘酸っぱい「黒麹」(同左)や「そば麹」、「玄米麹」が主なラインナップです。

開業当初、そば麹とともに開発した「有機オートミールの麹」は終売予定。有機のオートミールがなかなか手に入らなくなってきたからです。「使う食材は、できるだけ丹波産、兵庫県産、国産でありたいんです。丹波には、技術や経験、高い志を持った生産者さんがたくさんおられます。そういった方々のすごさを知ってほしいという思いもあります」と、食材へのこだわりをみせます。

こうじをつくるには、米や麦などの食材に種こうじ(通称:もやし)と呼ばれる菌をつけます。同店では、食材に合わせて数種類の種こうじを使い分けていますが、そのひとつに「ひかみ7号」という菌があります。「その昔、丹波に『ひかみもやし』という種こうじやさんがあったそうです。いまは廃業してその菌を大阪の会社が引き継いでいます。丹波の地で、丹波の食材を使って、丹波由来の菌でこうじを醸すことが、大好きな丹波の尊敬すべき生産者さんの魅力を伝える一手になれば」と語ります。

高2で決めた醸し人への道

本間さんは高校卒業後、丹波市内の酒造会社に就職。酒造り、甘酒づくりから営業まで、10年かけて日本酒にまつわる様々な仕事を経験しました。しかし体調を崩し退職。しばらくして身の振り方を考えたとき、やはり「発酵」にかかわりたく、「こうじ」であれば自分の知識や経験を活かし、新しいモノづくりができるかもしれない、と決意しました。

日本酒の道に進もうと決めたのは、姫路の工業高校に通っていた高校2年生の頃でした。化学科で地球環境科学を学ぶなかで、環境問題に興味を持ち、その流れで発酵や菌への関心が深まったそう。「環境の話は地球規模のマクロな視点で語られることが多いですが、『最終的には微生物が活躍する』という、ミクロな部分に惹かれたんです。その頃から微生物へのリスペクトがありました」。

日本酒づくりを選んだのは、「実家が米農家だったり、母が日本酒を嗜む人だったのも影響したかもしれません」と、本間さん。ちょっといい日本酒をほんの少し、「あぁ、美味しい」と幸せそうに楽しむ姿が、10代の本間少年に、日本酒は人を笑顔にするもの、というイメージを焼き付けたのかもしれません。

実はこの工房は、本間さんの母方の実家だったそうで、幼少期に何度も訪れ、一時暮らしたこともあった思い出の場所。家を継ぐ人がいなかったこともあり、本間さんが引き継ぎ、新たなモノづくりの場、継承の場にしました。

自社開発や他業種とのコラボで広がるこうじの可能性

本間さんは他業種とのコラボにも積極的に参加します。丹波市内のビール醸造所や酒屋とコラボしたビールは、大麦に白こうじ菌をつけて、さわやかな喉越しに仕上げました。また、チコリの根にこうじ菌をつけたチコリ根茶をつくったり、氷上高校との協業で味噌を仕込んだりと、様々な商品づくりも増えています。
今後は、豆や茶など、「おかしな」こうじにどんどん取り組んでいく予定。「丹波の黒豆を使った黒豆麹をつくり、味噌にしたいです」。丹波の食材と掛け合わせることで、独自性も美味しさも増しそうです。

さらには、自社商品である塩こうじや醤油糀などのこうじ調味料の開発も本格的に進めています。白米や玄米、そばなど、どんなこうじを使った商品が登場するのか、楽しみですね。
「そば麹は、味噌にしても醤油糀にしても、独特な風味が出ます。香りも楽しめると思います」と、本間さん。そしてプ―アール茶のような、こうじ発酵茶にも着手。どの商品も、食材には丹波や県内にある、業界内外から一目置かれた生産者やメーカーを選びます。
本間さんは、「その商品だけでも美味しい、素晴らしいものばかりですが。それらとうちの麹を掛け合わせたときに、どんな化学反応が起きるのか、お客様に喜んでもらえるのか。新たな挑戦ですが、期待していてください!」と、自信をのぞかせます。

味噌づくりのワークショップや消費者が自宅で楽しめる自家製醤油づくりキットなど、企画ものも手掛けるなか、将来的には、「どぶろくなどの醸造酒づくりにもトライしたいし、いろいろな製造者や生産者とコラボして、一緒に新しいものをつくっていきたい」と意気込みます。

農家ごとの米こうじをつくる「丹波を醸す」シリーズは、丹波の農家をさらに増やしていく予定。「こうじのシングルオリジンみたいな感じです。いつか少量ずつの食べ比べセットができるといいな」と、本間さん。
同じ米でも、農家さんごとに発酵具合もできあがるこうじの味も全然違うのだそう。食材ごとにこうじの香りや状貌(じょうぼう。状態のこと)を確認し、温度や水分などの調整をします。その結果、「ある農家さんのお米から、これまでにない甘さを引き出せた」と、手ごたえを感じ、どこも真似できないオリジナルの「おかしな」こうじづくりに、ますます精を出していきます。

 

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