「ら・ぱん工房 来古里(きこり)」の朝は早い。パンの製造部隊が5~8時まで勤務。分業制なので袋詰めなどの部隊が9~12時まで。その後別の「メンバーさん」たちがやってきて販売などを担います。ここは、パンづくりを通して障がい者の就労支援をしようと代表の高見忠寿さんが7年前にオープンした工房兼販売所です。約20人の「メンバーさん」たちが、月曜から金曜まで、和気あいあいとした雰囲気でパンづくりから販売までをこなしています。
一つひとつの作業を分担して、協力して、支え合ってパンが完成する
こちらの工房では、18歳から65歳までの障がいを持った方が、それぞれの体調やスケジュールに合わせて通所しています。取材にうかがったときは、パンの袋詰め作業も大詰め。朝のミーティング時にみんなで相談して、作業工程の担当を決めて仕事に取り掛かります。パンを袋に入れる、シールを作る、工房のシールを貼る、価格のシールを貼る、番重に入れる、陳列棚まで運ぶなど、一つひとつの工程を、みんなでつないでいきます。
一人ひとり、できることやできないことは違いますし、身体的・精神的なハンデなども考慮し、その人に合わせた作業を割り当て、みんなで分担しながら一緒に作業していきます。
「ぼくたち職員スタッフはあくまでサポート。どのパンも、メンバーさん全員が携わっています。ぼくたちがぱぱっとやってしまったほうが早いかもしれないですし、形もきれいかもしれない。ですが、それでは意味がありません。形はそろっていなかったり、少しいびつかもしれませんが、それは個性だと思っています」と、生活支援員の岡田理光さん。
時には、「この作業はしたくない」、「あっちをしたい」などと主張をする人もいるのだとか。岡田さんは、「理由を聞いて、筋が通っていれば受け入れますが、そうでない場合は、一人ひとりの個性を見て、相手に寄り添ってじっくりと語りかけていきます」。
特に心がけていることを聞くと、「命令するのではなく、メンバーさんの意思を尊重しながら、一人ひとりが主体性を持って取り組めるように、職員みんなで相談しながら、進める毎日です」。
できることが増えていく喜びは、職員にとってもかけがえのないもの
約30種あるバリエーションのなかから、日によってラインナップは変わります。工房オープン当初から人気なのは、メロンパンやべにいもパン。そのほか、地元の牛乳を使った「丹波地乳(ぢちち)食パン」も人気で、こちらは注文が入れば作ります、とのこと。
パンづくりで一番難しいのは、「玉取り」という作業なのだそう。こねたパン生地を丸めることですが、ただ丸めるだけでは団子状に硬くなってしまうので、ガスを抜きながらキレイに丸めるのが、ひと苦労だとか。メンバーさんは、それぞれのやりやすい方法を探りながら、時間をかけて習得していきます。
手先の器用なメンバーさんは、ひし形のデニッシュ生地を折り紙のようにキレイに折りたたむことができるそう。「みんなそれぞれ、得意分野を生かした作業をしてもらっています」と岡田さん。
習得できるスピードもそれぞれ異なりますが、できなかったことができるようになったり、やり遂げたときの達成感の表情を垣間見ることができたときは、「ぼくたちも嬉しくなります」と、岡田さんに笑みがこぼれます。
仲の良い空気感が、パンにも表れる
工房にお邪魔してまず印象的だったのは、メンバーさんがみんな気負いなく、楽しそうに、そして居心地良さそうに仕事をしていたこと。取材日に初めて参加した方もいて、「緊張しています」と話していましたが、早々に違和感なくみんなに溶け込んでいました。岡田さんは、「ここのメンバーさんはみんな、おしゃべり好きで仲が良いので、初めての方も比較的すぐに馴染んでますね」と教えてくれました。
朝の掃除や片付けの当番も、みんなで決めます。パンの鉄板についた焦げなどを落とす人、それをふき取る人、油を馴染ませる人…。一つひとつの作業をみんなで分担して行うことで、自然と良いチームワークが生まれ、良い人間関係につながっているのかもしれません。そんな和気あいあいと明るい雰囲気のなかで作り出されるパンは、ふわふわと柔らかく、優しく、ほっこりする味です。
工房での販売のほか、道の駅・おばあちゃんの里(月曜と金曜)や市内の子ども園、看護学校などでも販売しています。近くの小学校とパンづくり体験イベントを行うこともあるなど、地域に開かれたパン工房です。
<注意事項>
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- 掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。内容の変更、消費税率変更に伴う金額の改定などが発生する場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。