丹波を映画のまちに。目指すは丹波国際映画祭

ヱビスシネマ。(株式会社コドルニス)

かつて丹波市には10軒の映画館があり、そのうち2軒は氷上町成松で営業していました。最後の映画館が閉館してから50年、賑やかだった成松の商店街も今はひっそりとしています。そこに2021年(令和3)夏、ミニシアターがオープンし、話題作の上映が続いています。まちの人と一緒に立ち上げから運営までを担っている映画監督の近兼拓史さんを訪ねました。

ふるさとの景色を残したい

近兼さんと丹波の出会いは映画の撮影でした。山や田畑が広がる景色に日本の原風景を見、商店街に残る昭和の建物を見た時、「ここで撮りたい」と思ったそうです。
近兼さんは神戸出身、1995年(平成7)の阪神淡路大震災で壊れた街は復興を遂げましたが、かつての面影はなく別の街になっています。一度消えた街はもとには戻らないと痛感しました。崩れた家でアルバムを探す人を見た時、思い出が人にとってどれだけ大切なものかも映像に関わるものとして心に響きました。
日本の原風景は、都会の人にとってもふるさとを思わせます。さらに、成松には1970年代の風情が残っていました。映画なら今ある街並みや産業を、そのまま使えるのです。

丹波で映画を撮り始めた近兼さんが、スタッフの楽屋に使っていたのが、今の「ヱビスシネマ。」の建物です。元々組事務所だった建物を自治会が買い取ったまま長い間空き家状態になっていて、 「使いみちがなくて困っている」と持ちかけられたのです。

映画の撮影中、地元の人たちはとても喜んで、エキストラはのべ3,000人にもなりました。「でも、撮影中に『なんの撮影ですか?』と聞かれて、映画だと答えると残念そうな顔をされるんです。なぜなら丹波市に映画館がないから遠くまで観に行くことはできない、と言われたんです。だったら、この場所を映画館にしたらどうかと何気なく言った」。それがいつのまにか、「監督が映画館を作ってくれるらしい」と、広まっていきました。

既に青垣に土地と建物を購入して映像編集のスタジオを作っていました。自宅は西宮です。「すぐに出ていかれては困る、買い取ってほしい」という要望が出て、覚悟を決めました。丹波市映画館復活プロジェクトをスタートさせ、説明会や体験会を開いて1年半かけて近隣の賛成を得たのです。丹波はいい街だと言ったところで、過疎は止められません。なにか起爆剤が必要です。「丹波を映画の街にしよう」その声に人々が賛同したのです。

特別なサウンドを体感できる映画館

上映室の50席はすべて木製で、座面には国の指定文化財である丹波布が使われています。

この映画館の特徴は、なんといっても「音」。作品によってスピーカーを使い分け、細かく設定しています。「どんなにいいスピーカーでも、寅さんとスターウォーズを同じスピーカーで鳴らすには無理があります。丹波で50年ぶりの映画館だから、可能な限り本物に近い音を届けたい」と近兼さん。女優さんの高い声、男優の低音、衣擦れの音、それぞれが心地よくリアルに聞こえるように、スクリーンの奥だけでなく、天井のスピーカーからも音を出しています。

ミュージカルなどの音楽作品を聞くと、その違いを歴然と感じます。やってくるお客さんの半分が東京からというのも、この音を楽しみたいからですね。たしかに、全身で感じられる音は、クリアでとても心地よいものでした。上映機器は作品の時代によって、昔ながらの 真空管と現代のデジタルを使い分けています。

丹波を映画のまちに

近兼さんは、「文化の地域格差をなくしたい」とも言います。映画を映画館で観られるだけでなく、丹波国際映画祭を開催して、海外のアーティストに丹波を知ってほしい、ロケ地としてはもちろん、文化や自然を体験する旅人が増えてほしい、とハリウッドにかけて、成松を映画のまち「NALLY WOOD/なりうっど」にしたいと思い描いています。

丹波国際映画祭は2022年をプレ大会として、丹波の6町6会場で2週間開催。10万人の動員が目標です。映画のロケは大きなプロジェクトです。多くの撮影スタッフがやってくるから、宿泊や食事などで地域経済がうるおい、上映されるとロケ地めぐりのような旅の企画も生まれ、街のPRにもなります。国際映画祭ともなれば、よりたくさんの人が動き、メディアも注目するでしょう。

映画館を楽しむ

「ヱビスシネマ。」にはミニシアターならではの親しみやすさがあります。映画を見終わったお客さんが近兼さんに感想を伝えるシーンは日常茶飯事。映画の感想や上映リクエストを記載する「ヱビスシエマ。」(500円)を記念に残していく人も。

ポップコーンにヱビスビール、地元・市島製パンのパン、監督自ら3日間かけて作るヱビスカレーなど、ドリンクやフードもいろいろあります。

ちょうど上映中だった「ルパン三世 カリオストロの城」でルパンが盗み出す1億円のモックを用意。1億円の重さを体感できます。ルパンと次元がとりあうミートボールスパゲティを再現したり、映画の立体体験が工夫されています。

Tシャツやトートバッグなど、オリジナルグッズも充実。ウクライナ支援Tシャツや募金も行っています。
Tシャツ3,000円、トートバッグ1,500円

そしてモモンガの家族はお客さんのアイドル。エサ代300円を寄付して、タイミングが合えば、さわらせてもらえることも。案外人懐っこくてびっくり。

丹波を舞台にした映画「恐竜の詩」(2018年、監督・脚本を担当)に続く話題作、「ヱビスシネマ。」の実話をベースにした「銀幕の詩」は9月30日公開予定。楽しみですね。
その他の上映作品、時間などはホームページで確認できます。

 

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