医療救急用バッグから企業ニーズに合わせたバッグもオーダーメイドでつくる

マルスバッグ

医療従事者がドクターヘリやドクターカーに乗って、あるいは消防隊員が消防車で現場に駆け付ける際に、必要な器材を入れるのが、医療救急用バッグです。このバッグをフルオーダーでつくっている会社が丹波市柏原にあります。2017年(平成29)に創業した「マルスバッグ」です。代表の細川晋さんが基本的に一人でデザインも製作も担います。最近では一般企業からの依頼も受け、ありそうでなかった機能性かばんを手掛けています。

かばんづくりを辞めてはじめた喫茶店経営が、新ビジネスを引き寄せた

医療救急用バッグに求められることは、現場に着いて、いかに“迅速に”必要な道具を取り出せるか、ということ。たくさんの器材を入れるので、かばん自体は軽く、一方で高価な器材を入れることもあるので丈夫さ、そして耐久性も必要です。

「何を入れるのか、どう使いたいのかなど、要望は病院によって、あるいは個々人でも異なってきます。一人ひとりのリクエストをうかがって、できる限りを尽くして製作しています」と、細川さん。

細川さんは“かばんの街”豊岡出身。そこで25年間かばんメーカーに勤務し、製作から企画営業など、かばんづくりに関する様々な経験を積みました。早期退職し、2013年(平成25)に地元豊岡で奥様と喫茶店をオープン。一旦はかばんづくりと無縁の生活を送ります。そんなある日、現在の仕事につながる出会いがありました。

ある日、喫茶店に豊岡病院 但馬救命救急センターのドクターヘリに乗る、フライトナースの方が来店しました。細川さんがかつてかばん職人だったということ知り、「相談に乗ってほしい」と言います。

現場に医療器材をたくさん持っていくのだが、いま使っているかばんは小さくて器材が入りきらない、使い勝手が悪い、ここにこんなポケットが欲しい…。オーダーメイドで医療救急用バッグをつくってもらえないか、というものでした。

既製品は海外で大量生産されたものが多く、必ずしも使い手の声を叶えたものではなかったようです。また、修理ができないこともあり、捨ててしまうしかないケースが多いことも知りました。

細川さんは喫茶店経営の傍ら「お役に立てるなら…」との思いで、医療用救急バッグをつくりはじめました。収納したいものや大きさ、色、ポケットの位置や数など細かい要望を聞いてできあがったかばんに、第一号のお客さんであるフライトナースの方はたいそう喜んでくれたそうです。

その後、同じ病院の方々からもオーダーが入り、さらにその方たちからの口コミで、少しずつ注文が増えていきました。

そして、喫茶店との二足の草鞋は難しくなってきたため、2018年(平成30)丹波に移り住み、工房を構えました。

「豊岡ほど雪深くないし、都会にも出やすい。何より、丹波の空気感が肌にあいました」。

高い技術力で医療用以外にも広がるニーズ

いまでは兵庫県下以外にも、北海道から九州まで、各地のドクターヘリやドクターカー、消防車などに細川さんが製作したバッグが搭載されています。また、「今度はこういうのが欲しいんだけど…」といったリピートの注文や、修理の依頼も多いそう。「人の命が助かることに私のかばんが役立つのであれば、こんなにうれしいことはありません」と、細川さんは目を細めて話します。

医療救急用バッグでスタートした「マルスバッグ」は、2019年(令和1)に「丹波すぐれもの大賞」受賞をはじめ、「ひょうごNo.1ものづくり大賞 技術部門賞」、「ひょうごクリエイティブビジネスグランプリ 優秀賞」(ともに2021年(令和3))を受賞するなど、高い技術力が評価されています。

そして昨今は、医療救急用だけではなく、様々な企業からのオファーも入るようになりました。

こちらは、ウォーターサーバーを入れるリュックです。普通の水を入れるウォーターサーバーではなく、池の水などを入れても、内蔵されたろ過装置を通って、きれいな飲み水になるというもの。電力が不要なので、災害時や水道が整備されていない場所で重宝されます。

一方で、この容器はガラス製で持ち運びしにくいという難点がありました。そこで細川さんは、容器を解体することなく、かばんを開けたらすぐに使えるように「風呂敷をイメージした」リュックタイプを考案しました。

その他、ポータブル蓄電池を雨から守る防水バッグも製作しました。ポータブル蓄電池は、災害時などで電力供給が止まってしまった際に重宝されていますが、構造上、防水性能を持たせることができないのが難点。そこで、縫い目から水が入ってこないような製法を編み出し、電力を出力している間も蓄電池を雨から防ぐことができるようなかばんを考案しました。こちらは業界初、特許申請中(2021年9月末現在)です。

「モノづくりが好きです。自分のつくりだすものが人の役に立てるのであれば、体力の続く限り、つくっていきたいです」と、意気込みます。今後は日本各地だけではなく、海外へも販路を広げていきたいと画策しています。

 

<注意事項>

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