廃業直前の牛乳工場を立て直し、安心安全な牛乳をつくり続ける

丹波乳業株式会社

丹波市の学校給食を食べて育った人のなかには、懐かしさを感じる人もいるであろう「ひかみ牛乳」。冷蔵庫には必ず入っているご家庭もあるかもしれません。市民には馴染み深い牛乳や乳製品をつくっている丹波乳業株式会社は今、酪農家が経営を担っています。廃業の危機にあった牛乳工場を引き継いだ、代表取締役の吉田拓洋さんに話をうかがいました。

丹波の生乳を使った牛乳や乳製品は暮らしの必需品&贈答品にも

代表的な商品のひとつ「ひかみ牛乳」は、丹波や但馬地域の生乳を使用した牛乳で、丹波や近隣他都市の学校給食にも採用されています。スーパーマーケットなどでも販売されているので、お馴染みかもしれません。

丹波市内4軒の酪農家が育てた乳牛の生乳を使っているのが「氷上低温殺菌牛乳」。ホモゲナイズド処理をせず65℃の低温で30分間殺菌処理をしたもの。どちらも搾乳した翌日には出荷される新鮮な生乳であることに変わりはありませんが、こちらは牛乳臭さがなくあっさりとした飲み心地です。

こちらも地元名産、飲むヨーグルト「のんじゃえ丹波」。150mlサイズは「“子どものご褒美”みたいな存在になっているようです」と、吉田さん。大きな900mlサイズは年末年始になるとよく売れるのだとか。帰省した家族や来客の方々と一緒に飲まれるのか、贈答品にされるのでしょうか。

丹波の生乳を使ったヨーグルトも人気商品です。真ん中のプレーン「丹波ヨーグルト」は、砂糖も入っておらず、ヨーグルトらしいヨーグルト。酸味がちゃんときいていますが、生乳自体が美味しいので、クセなくさっぱりといただけます。吉田さんは毎朝シリアルと一緒に食べているそうです。「最近は酸味の抑えたものも多いですが、ヨーグルトにはこの酸味がないと!」と、力を込めます。

「丹波産大納言あずきヨーグルト」と「丹波産黒豆ヨーグルト」は、丹波ならではの商品。贈り物にも重宝されています。

姫路市安富町のゆずマーマレードとコラボした「ゆずヨーグルト」は、女性社員にも人気の一品。さわやかな柚子の酸味がヨーグルトととてもよく合います。

今後、新たな食材とコラボした商品が追加される予定です。

丹波の風土で育つ美味しい農作物は未来につながる

同社の設立は2014年(平成26)。前身の運営母体は兵庫丹但酪農農業協同組合でしたが、酪農家の高齢化や牛乳工場設備の老朽化、売上不振など課題が多く、牛乳工場は廃業の危機に瀕していました。一方、吉田さんは、2009年(平成21)に丹波市で酪農を始めたばかりの新規就農者。丹波での酪農に最も魅力を感じたのは、「地元の酪農家が自分たちで絞った生乳を、自分たちで牛乳にして、毎日小中学校の給食に使われているという点」だったと言います。牛乳工場が閉鎖されてしまうと、酪農を志した大きな意義を失ってしまうことになると危機を感じ、自分で事業継承することを決意しました。

丹波乳業のこだわりにひとつは、乳牛たちのエサ。「氷上低温殺菌牛乳」は、丹波市内の4軒の酪農家の生乳を使用していますが、牛舎の周りでは牛のエサとなる稲を育てています。刈り取ったあとには、次の稲を育てるための肥料として乳牛の堆肥を撒き、稲が育ち…ということを繰り返します。

「牛のエサには、この稲と穀物(非遺伝子組み換えのとうもろこしと大豆)を半々に混ぜて与えています。飼料は外国産であることが多い中、国産、しかも地元産のものを50%も使っているのは、珍しいかもしれません」と、地元資源を循環させた取り組みは、耕作放棄地の活用にもつながり、手ごたえを感じています。

毎年市内の小学3年生は、社会見学の一環で牛乳工場の見学や牛舎見学に訪れます。「農業や酪農に若い成り手が少ないのは、そもそも将来の仕事を考えたときにその選択肢に入っていないから。小さい頃からの体験が大切だと考えています。中高生になって将来のことを考えるようになった時に、なんとなく牛の顔が思い浮かぶような取り組みを続けていきたいと思っています」。

吉田さんは社長業も担いながら、酪農家でもあります。酪農の多くの場合は牛をつないで飼う“つなぎ飼い”ですが、青垣町にある吉田さんの牛舎では、「決して広くはないけど、牛が自由に歩き回れる」のです。「牛が好きなだけ水を飲んでエサを食べ、好きなだけ動いて寝て…という空間をつくりたかったんです」。そんな牛舎で育った牛たちは穏やかで、とても人懐っこいそうです。「人を怖がるどころか、ぺろぺろとなめてきたりもしますよ」。

「牛乳は90%以上が水分です。水が美味しくないと牛乳にしても美味しいわけがない。丹波は水が美味しいですよね。私の牛舎がある青垣は加古川の源流。上流に行くと天然記念物のオオサンショウウオがいるほどです。牛乳も含め、そんな美味しい水で育つ作物が、ここ丹波にはたくさんあります。そんな場所で子育てをしたい、家族と暮らしたい…と思える地域づくりをしていきたい。そして、安心安全な商品をつくり続けていきたい」と、今後も丹波の未来をつなげていく覚悟です。

 

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