“兼業農家”編集者が作った「丹波カリィ」。丹波をギュッと詰め込みました

丹波カリィ 食堂東中

春日町にある「食堂東中」の「丹波カリィ」は、風味豊かな香辛料が際立ったスパイスカレーです。スパイスカレーと聞くと、「辛いのでは?」と想像する方も少なくはないでしょう。丹波カリィは、子どもや辛い物が苦手な人でも最後のひと口まで美味しくいただけます。民家のゆるりと流れる時間の中で、スパイスカレーを味わい、店主の家辺(やべ)光康さん、安世さん夫妻にお話を伺いました。

丹波カリィをいただきます

この看板が出ていれば営業中の合図

春日町東中。春日栗柄線から少し南へ入った、のどかな田園風景の中に建つ1軒家。道路際に、丹波カリィと書かれた縦長の四角い看板を見つけました。左側にある家の暖簾をくぐって食堂東中へ入ります。

お店の方が見当たらない時は、玄関の呼び鈴を鳴らして

食堂東中のメニューはスパイスカレーだけです。代金は、コーヒー付で1,000円。美味しいご飯を食べてほしいから、ご飯はおかわり自由なんですって。基本は「赤いカレー」ですが、季節によって、「緑のカレー」とのあいがけも楽しめます。ちなみに、赤いカレーは木成り完熟トマトがたっぷりと入っています。緑のカレーは青菜のカレーで、時季によってホウレンソウやナノハナが入ります。また、冬限定でベシャメルソースがベースとなった「白いカレー」もあるそう(あいがけがおすすめ!)。

席につき、しばらくするとスパイスの香りと共にサラダが添えられた赤いカレーと自家製ピクルス、ヨーグルトがのったトレーが目の前に。まずはじめに、ご飯だけをいただきました。甘い!もっちりした食感で、ご飯の旨みがしっかり感じられます。次に、添えられたサラダをパクリ。塩とニンニクのみ(時々マヨネーズが少々入ります)というシンプルな味付けが地元産レタスの味を引き立て、シャキシャキ食感が心地よいのです。そしていよいよ、カレーにスプーンをダイブ。口に運ぶと、スパイスの香りと共に甘味が…、次にトマトの旨みが広がります。複雑な味わいがあちらこちらから顔を覗かせ、食欲スイッチがON。スプーンを口に運ぶ手が止まりません。

ヨーグルトは地元産で水分を切ったもの。カレーと混ぜると美味しい

具材のタンドリー風チキンが香ばしく、途中でヨーグルトを付けると味変して、もう何種類のカレーを食べているのやら!と満足度がぐんぐん上がります。

箸休めのピクルスもさっぱりとした味わいで、舌をほどよくリセットしてくれて、新たにカレーを欲します。
食後のコーヒーは、アイスでお願いしました。すっきりした飲み口のアイスコーヒーは、じっくりと時間をかけた水出しコーヒーです。添えられたスイーツも甘い物と少し塩味があるものといった具合で、最後まで心憎い演出です。
ペロリと平らげ、人心地着いたところで、ご夫妻にお話を伺いました。

丹波への移住は偶然の出会いから

リノベーションは一切せず70年ほど前に建築されたままの家屋

約14年前、大阪で編集プロダクション会社を経営していたご夫妻が、丹波に目を向けたきっかけは偶然でした。仕事柄顔の広い安世さんに「めんどうを見る人がいなくなった田畑があるけど、もの好きな人はいない?」と知人から声がかかりました。以前、この地を取材したときに丹波栗に出会い、いつか丹波栗を栽培することができたらと、「まずはこの私が」と、丹波に足を運びます。当時、築60年近いとはいえしっかりとした造りの家と緑豊かな周辺環境に心奪われ「私が借りよう!」と、すぐにこの家付きの農地を借りる決心をしました。

田んぼの畔には稲の害虫「カメムシ」が嫌がるハーブ「ミント」も茂る

家はさておき、気になるのは農地です。田んぼは一度放置すると復活させるのが非常に困難ですが、幸いにも空き家の時期も所有者が近所の方にお願いして手を入れていました。農業は未経験の安世さんが、ドキドキしながら植物など全く興味がない光康さんに相談すると、意外にも「いいよ!」と即答。元々機械好きな光康さんは、「指示を出してもらえれば、トラクターや耕運機を使えばできるかも」と考えたそう。そうして、丹波と大阪の2拠点生活が始まったのでした。

人が大勢集まる時は、家具や建具を取り払って縁側からも自由に出入り

週末丹波生活。本当にできるのだろうかと不安な気持ちでご近所へ引っ越しの挨拶に伺うと、「なんとかなるやろ」と。地域の人に助けられる日々が続き、夫妻は地域の行事にも目いっぱい参加し、コミュニティの一員として動くこと約1年。借りていた家と農地を譲り受けることができました。

木成り完熟トマトとの出会いが丹波カリィへ

仕事柄、こんなレアなポスターも譲り受け!

4年前、2拠点生活にピリオドを打ち、生活も経営していた会社も丹波へ完全スライドしました。耕作する人がいなくなった農地を預かるまでになっていた光康さんは農業に専念し、安世さんは、編集と農業の両輪で新たな生活が始まりました。

光康さんが作るお米の一部は、昔ながらの方法で天日乾燥させた味わい深いお米です。「美味しいお米をそのまま販売するのもいいけれど、美味しく炊けたご飯を食べてほしいな」と、思いはじめます。ご飯を食べてもらうには、丼?炊き込みご飯?…と、考えを巡らせていた時、かつて住んでいた京都で出会ったスパイスカレーが脳裏をよぎりました。

更に、ご近所に住むトマト農家さんが作った“木成り完熟トマト”と出会います。通常、市場に出すトマトは、型崩れしないよう完熟の少し手前に収穫されたものです。木成り完熟トマトは、すぐに傷むので市場には出せません。その場でしか食べられないトマトなのですが、これが驚くほどおいしいのです。他に丹波で調達できるものは、タマネギ、鶏肉…と考えていくうちに「やっぱりカレーだ!」と確信します。

スパイス以外は全て丹波産というスパイスカレー構想が持ち上がったのが約2年前。京都で出会ったカレーの味を思い出しながら試行錯誤すること約1年。ようやく完成した自信作を、昨年2月、週末のランチタイムのみ営業するというスタイルでお披露目。
その味が話題となり、このカレーを目当てに遠方から来るお客さん、フラッと通りがかりに立ち寄るお客さんなどで、土・日曜の食堂東中は賑わっています。

偶然に導かれた丹波暮らしが、農業に携わり、丹波カリィへとつながった家辺さんご夫妻のライフスタイル。行き当たりばったりではなく、人と人とのつながりを大切にし、きちんと計画を立てて実行してきた成果です。現在は、丹波カリィを広く世に知ってもらおうと、更なる計画が進行中の様子。今後も、丹波の人、土、水、空気とご夫妻を掛け合わせて生まれるモノに注目です。

※7~9月は、青垣でオープンしています。

 

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