余計なものは加えない。丹波の牛乳や食材選びにもこだわる「台湾式かき氷」

松井乳刨冰(ルーパオピン)

かき氷ブームが日本を席巻してから久しくなりますが、丹波でもこだわりを尽くした台湾式かき氷が食べられるようになりました。子どもの頃からかき氷好きだった松井信吉さんが、台湾旅行の際に出会ってほれ込んだ台湾式かき氷や台湾スイーツの製造・販売を開業。現在、店舗は構えず、主に週末に開催される丹波界隈のイベントに出店しています。丹波乳業の低温殺菌牛乳をベースに、その味を損なわないよう、ほとんどのトッピングやソースは無添加・手づくり。こだわりのほどをうかがいました。

練乳もフルーツソースも手づくり。素材選びにも全力で

台湾式かき氷は、生クリームや練乳など甘みを入れた氷を削ることが多いそうですが、松井さんのつくるそれはミルク氷と呼び、丹波乳業の低温殺菌牛乳のみを使用。初めてその牛乳を飲んだ際、あっさりとくせのない美味しさに感動し、甘みなど添加しなくても美味しいかき氷ができるハズだと直感。かける練乳にも同じ牛乳を使用し、国産きび砂糖だけを加えて3時間ほど煮詰めて作ります。「市販の練乳とはまったく別物。練乳の概念が変わると思います」と、松井さん。

牛乳の美味しさを生かすためのトッピング選びも秀逸です。香川県や愛媛県の和菓子「おいり」は、もち米でできた、あられの一種。口に入れるとすぐに溶けるほどふわっと軽い食感。四国地方への旅行の際、ソフトクリームにトッピングされているのを見かけ、カラフルで可愛い見た目と、ミルク氷の味を邪魔しない口当たりの良さから、メニューに取り入れてみたところ、大人気に。

フルーツのソースも手づくり。丹波のぶどうやブルーベリーを使ったものをはじめ、果物本来の甘みを生かすため砂糖の使用は抑え、あっさりと仕上げます。一番人気は、桃。「知る人ぞ知る」、加東市の「やしろの桃」をつくる農家さんと出会え、まとまった量を仕入れることに。桃自体が非常に甘く美味しいので、砂糖控えめのコンポートにし、手づくりのバジルシロップをあわせます。最初はミント風味が、後味にジンジャーを感じる、さわやなかソースです。7月頃~8月頃までの期間限定。
その他、丹波乳業のヨーグルトを凍らせて削り、石垣島のパイナップルに自家製マンゴーシロップをあわせたものは今季初登場の予定。

大人に人気なのは、ほうじ茶ラテ氷。ミルク氷に練乳をかけ、ほうじ茶の粉末をかけたものですが、ここにも松井さんのこだわりが光ります。ほうじ茶かき氷は珍しいものではないかもしれませんが、その多くはお茶のシロップをかけたもの。しかし、あちこち食べ歩いた松井さんは、お茶の香りや味わいを生かしたものにまだ出会えていないと、とても残念に思っていたそう。「お茶の味を出そうと濃く煮出してしまうことで、繊細な風味がなくなっていると感じるんです」。
そんなとき、神河町にある茶園の粉末ほうじ茶に出会い、試作してみたところ、ほうじ茶の風味が生き、かつミルク氷にも合う香り高いほうじ茶ラテ氷が完成しました。

子どものためのかき氷だからと、大きさにも優しさが表われる

松井さんは子どもの頃からかき氷好きで、大人になってからあちこち食べ歩きもしたほど。しかしその頃はブームでもなく、「おしゃれ」なかき氷もなかったと言います。かき氷が盛んだと聞いた台湾へ旅行に行った際、あの山のように高く、豪華なトッピングで彩られたかき氷にどっぷりとハマり、帰国後、自宅で牛乳を凍らせ、家庭用かき氷で家族や友人にふるまいました。

松井さん、実は移住組で、この頃はまだ大阪在住。ご縁あって丹波に移住することに。就職の相談に乗ってくれた方に丹波乳業を紹介され、就職することになりました。「いつか台湾式かき氷店をやりたいが、まずは丹波の地に慣れることから始めたい、とその方に伝えました。そして、地元に美味しい牛乳メーカーがあると教えてくれたんです」。ここで松井さんのミルク氷のベースとなる、低温殺菌牛乳と出会います。
4年ほど勤め、家族や友人が背中を押してくれたこともあり、イベント出店や間借りした店舗の一角で台湾式かき氷を提供しはじめました。

松井さんは「多くの子どもたちにかき氷を楽しんでもらいたい」という思いで、食材を選び、手間ひまかけて手づくりしています。また、その大きさにも配慮します。流行りが加速するのと比例するかのように、氷はどんどん山のように高くなり、1杯1,200円、1,500円といった高級かき氷が増えてきたように思いますが、そうなっている業界の事情も理解できると松井さんは言います。一方で、子どものためのかき氷づくりが念頭にあるため、松井さんは、「お子さんが1杯を食べ切れて、溶けても飲み切れ、また、全部食べても砂糖を摂りすぎないくらいの大きさを意識しています」。

冬場の台湾スイーツも必食。小豆は小4から炊き、杏仁粉は台湾から直輸入。

屋外でのイベント時には、牛乳ではなくいわゆる「氷」のかき氷を販売します。ここでは手づくりのシロップの使用は衛生法上できませんが、果汁の入ったシロップを厳選しています。
小さいお子さんが「全部食べたー」「美味しかったー!」と空の器を持って見せに来てくれたり、足が不自由な年配の方が、松井さんのかき氷を食べることを目標にして、杖をつきながらも自分の足で歩いて来てくださったりすることが、とても嬉しいと話します。

都会や極寒地・北海道などでは冬でもかき氷のニーズは一定数ありますが、丹波ではほとんどないのだそう。そこで冬場は、乳花(ルーファ)という豆花、甘酒ぜんざい、かぼちゃココナツぜんざいなど、台湾風スイーツを提供しています。
小学4年生の頃から自分で小豆を炊き始め、ぜんざい愛も並々ならぬ深さをお持ちの松井さん。お店で出すのは、もちろん丹波産大納言小豆を使用。こちらもご縁あって、少量生産しかしていない農家さんのものを特別に仕入れているのだとか。砂糖を激減させ、塩を入れることで小豆の味を引き立てています。

リピーターが多いのは、台湾で見かけたことはない、という松井さんオリジナルのかぼちゃココナツぜんざい。日本の餅の代わりに、茹でてマッシュしたサトイモやさつまいもなどに白玉粉やタピオカ粉を混ぜてつくる台湾式白玉をトッピング。かたくなりにくく、もちもちして、いも類の甘みが生きています。

隠れた杏仁豆腐ファンも根強くいます。日本では多くの場合、アーモンドシロップやリキュールを使って「杏仁っぽい」風味をつけていますが、松井さんには「クセが強すぎる」と感じます。そこで、台湾で杏仁(あんずの種)を粉末にしてくれる漢方薬局や、杏仁粉を販売する台湾の小売店から輸入しています。“ホンモノ”の杏仁豆腐は、杏仁豆腐が好きじゃないという人までもが虜になる逸品です。

今後、新たな食材との出会いや農家・作り手とのコラボも期待しながら、ますますのメニュー開発に余念がありません。

 

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